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あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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目の前に広がるのは海、そして空――

世界は海と陸と空で構成されているのだと、改めて認識させられるような光景が、どこまでもゆるゆると続いていた。
こうしてみると、世界に国の境目が存在するなんて、まるで信じられない。
≪さて≫
飛び立ってしばらくの間休むことなく煩かったエンジンが、機体が水平に戻ると同時に急にその音量を落とす。
≪そろそろ、楽しいお喋りの時間としますか≫
≪へ?≫
≪こちら馬車引き。聞こえるか?≫
≪聞こえます。≫
私は何がなんだかわからないまま、教えられたボタンを押しながら、若干緊張した面持ちで答える。こんな映画みたいなことは初めてだ。
≪オーケー、いい子だ≫
そう言うと、機体の角度がやや上向きになった。どうやら上昇しているらしい。
≪さて。今から3つほど質問をする。一つ一つ真剣に答えてもらいたい。回答が気に入らなかったら海に放り出すから、姿勢を正し、心して答えるように。≫

 え?

言われる意味がわからず、ぽかんとする私に、馬車引きは構わず次の言葉を紡ぐ。気のせいか、機体の角度がだんだん急になってきた。
≪その一。あんた、なんのために公式以上の情報を求める?≫
≪そ、それは、あんな情報では不十分な部分が多いからです≫
だんだんとエンジンが出力を上げ始めたのか、再び後ろから耳を圧迫するような高い音が聞こえ始めた。
≪戦争の経緯なんて、民間人が理解する程度ならあんなもんでも十分だろう?≫
≪いいえ!≫
姿勢と、加重の変化に、だんだん胃がむかついて頭がくらついてきた。気のせいかスーツが膨らんでいる気がする。下半身が痛い。
≪あの公式文章は――絶対になにか隠したいものを書かずに出されたものだ。これはジャーナリストとしての勘だけど――そこには何かの悪意を感じるんだ≫
≪・・・≫
機体の角度は、今や足の方が空に向くほどまでに傾斜していた。
≪その二!”片羽の妖精”とやらに会って、どうするつもりだ?≫
私は顔面から血の気が引く思いで無線に耳を傾ける。
これは――質問じゃない。尋問だ。
だが、これが片羽の妖精に会うために必要な試練なら、乗り越えて見せようじゃないか。
私は大きく息を吐くと、下っ腹に力を入れて答える。
≪歴史の暗号――鬼神と呼ばれる人間の本当の姿を、最も近しかったその男の口から聞いてみたいんだ。≫
≪ほう?≫
こんな角度でも、馬車引きが私と違って余裕のある声で反応する。
≪また”勘”で悪いんだが、何故だか――その鬼神の姿を追っていけば、歴史の隠された闇の部分が明らかになっていくような気がするんだ。・・・いや、これは確証かな。政府は故意に、彼の存在を隠したがっている。そこにはきっと、何かある気がする≫
機体はもはや垂直以上に傾いていた。頭が下になるのも、時間の問題だ。
そんな答えを聞いて、馬車引きはさらに掘り下げた部分を訊いてくる。
≪なんもかんも明るみに出せばいいってもんじゃない。堂々と公表できないことだったらどうするんだ?≫
私は毅然とした態度で答える。
≪それは、政府の都合でしょう。我々国民――いや、この歴史に立ち会った人間として、我々には事実を知る権利がある。≫
≪・・・≫
もはや海は頭の上だった。私は血の上った頭で必死に答える。
≪私たちが立っているのは、嘘の上に築かれた歴史ではダメなんだ。知らないで未来を歩くことは、同じ過ちを招くことになる。政府の政治的都合――とやらの”真実”だけでは、あの敗戦国、ベルカのようになる。あの悲惨な歴史を繰り返してはいけないんだ。≫
≪・・・・・・・≫
機体は、そろそろ下降を始めていた。
今度は、心臓が取り残されそうな落下感が全身を襲う。私は――はっきりいって、ジェットコースターは苦手だった。
否応なく軽くなる体。胃の中身が出そうになるような浮遊感。これは、ジェットコースターなんて比べ物にならないほどの”拷問”だった。
≪三つ。最後の質問だ。≫
今度の質問は、静かな声だった。
≪――なぜ鬼神にこだわる?≫
私は、言葉に詰まった。
これは、予想だにしなかった。というより、今まで散々答えてきたと思っていたからだ。
歴史の闇の部分を明らかにするため。その為には、鬼神の姿を探ることが必要だから?
そう答えてもよかった。
だが、私はその答えを口にすることはできなかった。
歴史の隠された部分を明らかにするためだけの”正当な”理由なら、――ならば、

・・・鬼神と呼ばれる存在に対するこの感情は、一体何なんだ?

私は、言葉にならなかった形を、ようやく掴み取ることができたような気がした。
自信はなかった。
このまま海に放り出されるかもしれない。
だが、私の答えは、こうとしか言いようがなかった。
≪・・・”鬼神”について調べるうちに、なんだか、変な感情に憑り付かれたんだ。≫

実のところ、私の中で”鬼神”という存在は、最初は歴史の闇を暴くためのただの”暗号”でしかなかった。
だが、色々な人間の証言を聞くうちに、いつの間にか戦争に住む鬼――”鬼神”の姿が、ふっと蜃気楼みたいに揺らぐ瞬間があった。
・・・何度も。
証人――デトルフ・フレイジャー、ライナー・アルトマン、エリッヒ・ヒレンベランド、 ドミニク・ズボフ、ディトリッヒ・ケラーマン、マルセラ・バスケス、ジョシュア・ブリストー――。
彼らはその”鬼”によってあのベルカの空から引き摺り下ろされ、敗北を突きつけられたはずだった。私はさぞや皆憎しみに燃えているだろう、そう思っていた。
しかし、いざ実際に話を聞いてみると、なにかこう――、言葉に出来ない違和感を感じていったのを覚えている。

≪・・・皆、何故か晴れやかな顔をして彼のことを話すんだ。≫

”鬼神”とまで呼ばれ、数え切れないほどの敵を墜とし、数え切れないほどの敵を殺し、焼けついた空を飛びぬけた戦いの申し子――。
だけれど、その存在を知れば知るほど、一人の人間の姿が、おぼろげながら見えてくる気がするときがある。不当な歴史のクレバスに突き落とされた、たった一人の人間の姿が。
≪僕は、彼を追うことによって、歴史は国が変えたんじゃない、人間が変えたものなんだと証明したい。世界を変えたはずの彼の存在を、隠されたままにしておきたくないんだ≫
話し終わるころには、機体はとっくに雲の上で水平飛行に戻っていた。
そして、話が終わっても、馬車引きは無言だった。
≪これが初めての本音だ。ここまで聞いて海に突き落としたいのなら、どうぞ遠慮なくレバーを引いてくれ。≫
答え終わっても、馬車引きはかなりの時間無言だった。
朝日が昇り始め、一筋の光がコックピットの枠を照らすころになって、馬車引きはようやく言葉を発する。
≪・・・肝っ玉だな≫
≪どういたしまして≫
機体は、ただただ真っすぐに飛んでいた。どうやら私は試されたらしい。
≪・・・放り出さなくていいのかい?≫
すると、無線の向こうでククッと喉を鳴らすような音をたてて、馬車引きが答える。
≪操縦席から後座だけ放り出すアホ改造なんてするか≫
・・・どうやら、また私はおちょくられたらしい。



それから1時間弱ほどは、平穏な空の旅だった。
異変は唐突にやってきた。
ヒュウ、というような口笛の音が無線に入り込む。
馬車引きの無線の声で、私ははっと考え事から現実に引き戻される。
≪やっぱりおいでなすった≫
おいでなすった?何が?・・・
私はヘルメットのバイザー越しにクックピットの左右を見回すが、先ほどと全く変わらない空と雲に、別段これといって異変はない。
≪ドロップタンク、投下。少し飛ばす≫
馬車引きがそういうと同時に、今まで比較的静かだったエンジンの出力音が、はっきりと分かるほどに高くなった。
心持ち、先ほどよりも強くシートに体が押し付けられている気がする。
そして、今まで景色や地図らしきものを映し出していたディスプレイが、一斉に何かのグラフや平面図のようなものに切り替わる。
≪まさか、尾行が・・・?・・・≫
≪逆だな、待ち伏せされてる。全く用意周到なことで≫
果たして、映し出される薄暗い画面の中央部に、ゴミのような何かが列を成して空に浮かんでいる。
私はハッとした。

あれも、戦闘機なんじゃ・・・・・

≪無線を外部モードに切り替える。なるべく話してくれるなよ。――と、あとちょっと荒っぽくするから、しっかりベルトに掴まっとくんだぜ≫
最後のほうは、内容とは正反対に、今にも笑い出さんばかりの嬉しそうな声だった。
もしかして、この状況を楽しんでいるんじゃ・・・・。
私の頭の中を、嫌な記憶がよぎった。私はこれから起こるであろう試練を想像し、身を固くする。
さっきのあれよりもひどい機動?冗談じゃない・・・
その途端、無線がオンになる。その声は、聞いたこともない声だった。
≪オヴニル1から全機へ。ターゲット接近。全機、迎撃体制に移れ≫
≪了解≫
右隅のモニターに映る情報から辛うじて推測することができるのは、どうやら敵はこちらと同じように戦闘機に乗っており、4機編成であるということぐらいだった。
点滅する機体の三角印が、急速に十字の真ん中――恐らく、自機の位置だろう――に向かって接近する。
≪33か≫
その途端、計器がいきなりピー!という甲高い音をわめきたてる。
私はびっくりして背筋をびくりと伸ばした。
≪オヴニル1、FOX2≫
≪問答無用か≫
馬車引きが呟くと共に、機体がふわりと浮き上がった。
いや、浮き上がったのは私の体で、機体は逆に急降下を始めたようだった。
先ほどの”拷問”とは比べ物にならない動き。鳴り止まない何かのアラート音。
「う・・・」
漏れそうになる悲鳴を、必死に喉の奥にとどめる。心臓が持ってかれそうだった。
体はこれでもかというほどにシートに押し付けられ、機体は私の不安を伝えるように、細かくゆさゆさと揺れていた。
このまま地獄に直行するといわれても、普通に信じられそうだ。

ピ――

電子音が狂ったように異常音をかき鳴らしている。
≪全機、反転。フォーメーションBに移行しろ≫
モニターには、青い海面が一面に映し出されていた。このまま突っ込みそうな勢いでどんどんズームアップされている。
(し、死ぬ・・・・)
心臓だけがどこかに飛んでいってしまったと思っていると、今度はまた機体が運動の方向を変えたらしい。体がぐいいっと本来の重力方向に押し付けられる。お尻がずり落ちそうだ。
再び真っ直ぐ高速で飛行しているらしい。私は見上げた空に一瞬映った三角形のシルエットを目で追う。シルエットは、一瞬にして豆粒の大きさになって後方へ流れていった。
だが、余裕をもって見てられたのも一瞬のこと、すぐに機体が水平方向の左へと、急に移動した。私は右側に体を押し付けられ、慌ててベルトを掴みなおす。
その視線の先を、光の群れが高速で流れていく。
光の流れは留まることなく横を並走し、だんだん近づいているようだった。
わけも分からず見とれていると、再び計器が騒ぎ立て始める。今度は空がくるんと傾いた。
頭の真上に海が落っこちる。
私の胃もそろそろ落っこちそうだった。
ディテイルの小さくなる海も、波の形なんて分からないほどの高速で滝みたいに視界から流れ去っていく。
外では無音で風が唸り、明けの空の薄明かりの中、あちこちがピカピカと光っては物凄い速さで流れ去っていった。
≪オヴニル2、オヴニル4、護衛機のミサイルに注意しろ≫
≪了解≫
≪オヴニル3、FOX2≫
体が浮き、横に押し付けられ、視界が回り、加速にまた後方に押し付けられる。
例えるなら、洗濯機の中に入って回されてるようだった。吐きそうだ。
≪くそ、当たらない!≫
≪おい、こっちにくるぞ≫
≪あッ≫
誰かの叫びのあと少しして、激しいノイズが無線を占拠し、鈍い爆発音が遠く響く。
≪当てるつもりか!≫
≪クソッ、なめたことを!!≫
その間にも、機体は右に、左に揺さぶられ、時々くるりと上下が入れ替わる。私は生きた心地もしなかった。
≪どうやら、ただのパイロットじゃなさそうだ。全機、無兵装だからと遠慮することはない。叩き墜とせ≫
その間にも、機体はギシギシと悲鳴をあげ、後ろではエンジンがゴウゴウと音をたてて猛り狂っていた。
≪追いつけるもんならな≫
馬車引きが低い声で囁く。
その声につられるようにして、ふと目が合ってしまった右隅モニターの勢力図のようなものでは、▲印の機体全てがこちらに舳先を向けていた。
オマケに、後ろにぴったりと吸い付いている。
――私は、生まれて初めて殺意――それも、機械の様に淡々とした尖った殺意を、肌で感じていた。
≪全機、特殊兵装の使用を許可する≫
ここまでくれば私にもわかる。
これは、絶望的という言葉が似合ってるんじゃないだろうか。
≪オヴニル2、FOX1≫
再び計器が慌ててわめきだす。
≪チッ≫
再び、機体が急激に角度を変えて上昇を始めた。
機体は気持ちのいいほど静かに空に向かって上昇してゆき、ヘルメットの中では誰かがひっきりなしに喋っている。気が狂いそうだ。
私は何度目になるか、地獄の門への入り口を眺めている気分になっていた。
ピッピッピッ・・・
何かのアラート音がまるで、心音計の音のようにリズムを刻む。
その音が、私の動悸に呼応して、どんどん早くなる。
ピピピピピ・・・
頭が真っ白になりかけたころになって、衝撃が機体を襲い、機体がぐるんと回った。
(被弾した!?)
もうダメだと思った。脱出レバーを引くのは今かと思ったくらいだ。
だが、機体が激しく揺さぶられるも、体にかかるGの負担は一向に変わらなかった。
≪なんだ?フレアに?≫
≪チャフだ!クソ、いつまで手間取ってるんだ≫
どうやら、被弾したかどうかはわからないが、まだ死ななくてもいいらしい。
今や機体は、私が乗り続けた中で最高のGをかけて垂直に空をすっ飛んでいた。
太陽に背中を向けて、とにかく逃げる。その一策のみだった。
≪空の競争で負けてたまるか≫
≪くそ、離される!・・・≫
機体はどんどんと高高度に上がって行き、空がどんどん青さを増していく。その後ろでわずかにエンジンの甲高い音が聞こえる。体がシートに押し付けられ、圧迫されているようだが、さっきよりは随分マシだった。
≪全機、アフターバーナーを使用せよ。≫
≪必死だな≫
≪お前がな。逃げ切れると思うな。必ず撃墜する≫
一分ほどかけて空を駆け昇り、ようやく水平飛行に戻る。
外の景色――特に雲は、今まで見ていた速度とは比べ物にならないほどゆったりとした流れで私たちの足元を敷き詰めていた。
私は今だ血の気の戻らない頭で、状況を整理する。
たぶん、今はオーシア大陸とユージア大陸の中間くらいなのだろう。
私の取材や、真実を明るみに出されることを面白く思わない連中――とは馬車引きの言葉だが――が、戦闘機まで出して先回りしてまで妨害をしようとしている。
それほどまでに、私を”片羽”と会わせたくない事情があるらしい。
そしてこの追撃は多分、ユージア大陸に着くか、燃料がなくなるまで続けられる。
私はまだ生きているようだが――状況は決して見通しがよくなさそうだ。
≪馬車引きから肝っ玉へ≫
その時、久々――実際はつい先ほど話したばかりだったのだろうが、私にはもう何時間も前のことに感じられた――に、馬車引きが私に話しかける。
≪まだ生きてるか?≫
私は生きている・・・と返答しようとして、通話のスイッチを押すことすら忘れていたことに気付き、苦笑しながらもう一度繰り返す。
≪お蔭様で≫
≪どういたしまして≫
本当に、色々な意味で”お蔭様で”だった。生涯でこんな体験をすることはもうないんじゃないんだろうか、と思うくらいの臨死体験だった。だが、彼がいたからこそ私はまだ生きている。
≪奴ら必死らしい。身軽なこちらに追いつけるとは思わないが・・・何をしでかしてくるかわからない。念のために射出装置を使えるようにしておいてくれ。まぁ、気休めだがな≫
――どうやら、状況は私の推測する通りであったようだ。
私は震える手で、教えられたとおりの手順で射出装置を可動にする。
≪無線をオープンに戻す≫
その言葉が終わる前に、私は食いつくように彼を呼ぶ。
≪馬車引き≫
≪・・・なんだ?≫
≪君は一体、誰なんだ?何故、こんなにも命を懸けるんだ?≫
すると彼は鼻で笑うような吐息を無線に混ぜながら、答える。
≪ただのヨーヘーさ≫
そして問答無用とばかりに、続けざまに言う。
≪お喋りはあとでな。切り替える≫
途端、言葉の切れ端が無線になだれ込む。
≪・・―兵装、準備良し≫
≪撃て≫
≪オヴニル4、FOX3≫
また攻撃だ。
私は少し諦めに似た感情を持ち始めていた。
生きて渡りたい。だが、自分の力ではどうしようもない。
今はただ、馬車引きを信じるしかなかった。
≪金持ちめ≫
無線の直後くらいだろうか、また機体ががくんと降下を始める。垂直とまでは行かないが、相当なスピードが出ていることは、容易に想像できた。また気持ち悪いほどに体が浮く。
だが、私は最初からだが――馬車引きもまた、今までの口調よりも若干余裕が感じられないような気がした。
≪目標接近、誘導を終了≫
≪了解、全機巡航速度に移行せよ≫
アラートが、唐突に再び騒々しい音をたてる。
≪回るぜ、死ぬなよ!≫
窓の外では世界がブランコのように空に向かって落っこちてゆき、ある通過点を境にして物凄い力で私はシートに押し付けられる。
重い。そして痛い。
機体は大きく上昇し、アラートは飽きることなくがなり続けている。
重い、痛い、そう思い続けているうちに視界が暗くなった。
意識が遠くなる――


遥か遠くに飛行するターゲットが、中距離降下後、ぐるりと円を描くように上昇機動を始めた。
私はそれをスコープで眺める。
無煙のアクティブレーダーミサイルが、ターゲットを執拗に追尾する。
逃げ切れるわけがない。
これが当たらなければ、お互いにお手上げになるだろう。
こちらは母艦に帰還できなくなり、相手は海に墜ちることになる。
≪隊長、いかがしますか≫
私は燃料残量計を見る。左側ゲージは、既に空になっていた。
どこの誰だか知らないが、無名機ごときが随分振り回してくれた。
だが、それもこれで終了だろう。
≪撃墜を確認次第帰艦する。このまま進路を維持し、待機せよ≫
すると、ノイズの激しい無線ですぐに反応がくる。
≪なめんな≫
私はゆったりと体を伸ばして口端を持ち上げる。
強がっていられるのも、あと少しだ。どうせ墜ちる。
偽装民間機――個人にしてはえらくいい機体に乗っている――は、実に高度差約1万mの大回転で追尾を振り切る気のようだった。
見抜かれている通り、アクティブレーダーミサイルの搭載レーダーの寿命は短い。母艦も発射機体も随分と離されてしまっている為、外部からの誘導も精度が低く、実際不可能だ。
だが、そんな無茶な高度差の回避機動など、搭乗者の体が持つわけがない。

――絶対に当たる。

私は後ろに僚機を従え、余裕を持ってそれを眺めていた。
そのときだった。
聞きなれない口調の無線が入った。
≪こちらISAF空軍第118戦術航空隊メビウス隊。≫
私はゆったりとリラックスしていた体を伸ばし、レーダーに目をやる。
この機体のレーダーでは把握できないような遠方からの無線だった。
≪現在交戦中の民間機、及び後方所属不明各機へ告ぐ。これより先はユージア大陸・ノースポイント領空となる。進路を変更されよ。≫
私は右隅のHDDの表示を切り替える。地図上では、まだユージア大陸諸国の空域には程遠かったが――
何らかの手段で向こう側に計らってあるのだろう。
(今噂のリボン付き、とやらか・・・)
私は再び口端を持ち上げると、全機に命令を出す。
≪全機、反転せよ。≫
ユージア諸国と事を起こす段階でもなければ、英雄とまで称される手強い相手とやりあう気もない。
≪――せいぜい足掻くんだな。≫
背後で隊員が反転して帰艦ルートをとるのを横目に見ながら、私は付け足す。
≪・・・生きてればまた会おう≫
そして、機体を真横にロールさせ、私も帰艦する。
空の彼方に未だ回避機動を続けるイーグルの影が、チラリと見えた気がした。



目視できないほど遠方に飛んでるはずのF-15――IFF照合上は民間機――は、どうやらミサイルに追いかけられているようだった。
上から多くを知らされているわけではないが、戦闘機で民間ナンバーを用いるなど、どうやらよほどの事情がある機体のようだ。
データリンクによって俺と同じスクリーンを眺めているだろうメビウス1に向かって、俺は名指しで話しかける。
≪スカイアイからメビウス1へ。ノースポイント領にはまだ遠いが?≫
≪メビウス1からスカイアイへ。弱きを助ける為なら嘘も方便とやらです≫
≪バレバレだと思うがね≫
俺はレーダースクリーン越しにメビウス1に向かって肩をすくめる。
しかし、これであの機体も回避行動に専念することができるようになっただろう。
俺はスクリーンに映し出された3機のF-22――メビウス隊と並んで、レーダーを静かに見守る。
戦闘があるという明確な状況ではないため、メビウス隊は3機のみだが、こちらは通常MSSLに加え、長距離照準対応のXAMMも装備している。
まさかこちらの兵装までわかったとは思えないが、やはり相手も事を構えるのは問題があるのだろう。ハッタリを素直に聞いて撤退してくれてよかった。
そんなことを考えていると暫くして、先ほどの民間機からの無線が入る。通信の声は少し息が乱れていた。
≪こちらスカイホーク1。プレゼントの拒否に成功した。約束通り、裸で来た≫
どうやら、やはりあの機体が伝えられていた人物が乗っている機体のようだ。すかさず俺は手続きを取る。
≪IFFの照合を。≫
≪了解≫
暫くしてレーダースクリーンの表示が切り替わる。IFFの統合が終了したようだ。
お互い目視できるほどまでに近づくと、メビウス隊は例の民間機を取り囲むように隊形を変形させた。
非武装で事前通達がある機体とはいえ、他国の戦闘機を無警戒で受け入れるわけにはいかない。
そんなスカイホーク1に向かって、メビウス1が意外に柔らかい声で通達する。
さては、さっきのアレで肩入れしたな。
≪こちらメビウス1。お疲れ様でした。要請通り、後方に補給機を用意してあります。≫
≪ありがたい、腹ペコだ≫
さらに、やや改まった口調で一言を付け足す。
≪――ユージア大陸へ、ようこそ≫

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