あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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エースコンバットZEROの読み物。
ベルカ戦争を駆け抜けた鬼神の姿を、登場人物の視点から振り返る
エースコンバットの世界で
2005年時点の読み物。
ブレット・トンプソンがヒロインの物語。
エースコンバットの短編ら
ジャンルは特に指定なし。
1Pで収まる文字ものたちです。
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2009/06/23-------
カテゴリー「コラム?語り」を「コラム・ネタ・語り」に変更
2008/08/22-------
ACEたちの欠片に前からあったのを追加
2008/08/08-------
ACEたちの欠片に一文
2008/07/14-------
機体操作・小ネタ集に
当たり判定追加
2008/07/11-------
我が家のキャラクター紹介に
大量追加
2008/06/18-------
人物をラクガキするに
5~10点追加
2008/06/10-------
THE GAUNTLET #5に
現在の記録SS追加
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”アイツ”が向こうに渡ってから3日。
その昼、唐突に作業場の壁に貼り付けた電話のベルが鳴った。
「あいあィ、こちらマッディマット・・・なんだ鬚オヤジか。どうした?――あン?・・・いや、出れるぜ?なんなら自家用機で・・・・ちッ、たまにはオレにも飛ばせろい。・・・ああ、四時な。」
そう言って、一方的に切ろうとした電話の向こうで、バリーがなおも何か続けようとする。
「あン?なんだって?・・・・」
だが、オレが聞き返した途端、バリーはウントモスントモ言わなくなった。
なんだ、アイツ。
そう思ってオレは手に持った受話器を見やる。
「・・・・いッけね」
受話器に繋がった電話線は、手に持ったハンダのおかげで、途中でプッツリ途切れていた。
待ち合わせ場所に現れたバリーは、いつになく渋い顔をしていた。
「どうしたィ、いつになく渋いツラじゃねーカ」
オレ達は野郎同士で並んで駅前のベンチに腰かける。
「渋み薫る燻し銀と言ってくれ」
「へッ」
相変わらず口の減らないジジイだぜ。
「・・・・。」
バリーは、渋い表情のまま隣に設置された灰皿の横で煙草を吸い始めた。
パイロット上がりのこのジジイは、昔こそ”パイロットが喫煙なんぞ言語道断!”と公言していたもんだが、最近は丸くなッちまったのか、めっきり主張しなくなった。それどころか、自分でも吸いやがる。
「・・・アンタ、老けたナ」
「どいつもこいつも、ひとと見りゃ同じ事ばっか言いよってからに」
「褒めてんのサ」
バリーが煙をフーッと吐き出す。
通行人が、こちらを睨みつけながら通り過ぎる。煙もふかしにくい時代になったもんだ。
「よォ、それで渡すもんってァーなんなんだ?」
バリーは黙って懐から一枚の封筒を取り出すと、オレに投げるように渡した。
「ボーイに渡せ」
「オイ、こりゃなんだい」
オレは眉を持ち上げる。
「オレは郵便屋じゃねエ」
バリーは大きくため息をつくと、「いいから渡せ」とだけ言った。
それきりこちらに目を合わせないまま煙をふかし続ける。
オレは目を剥いてジジイの耳元で再び怒鳴る。
「おい、フザケンな。自分で渡せ」
「大きな声で言わんども聞こえとる。」
「オレはやんねぇ、奥サンにでも渡してもらヤいいじゃねェか」
強引に突き返すが、バリーはそっぽを向いたまま受け取らない。
しばらくして、オレと目を合わせず、遠くを見たまま呟くように言い訳をした。
「長期の仕事が決まった。そいつはアイツの報酬なんだが、渡せないかもしれねぇ。渡しといてくれ。」
――嘘だ。
目の前のジジイは、どんなときだって営業を他人任せにしたことはない。事後報酬だって例外はねェ。必ず、自分の足で行き、自分の手で仕切り、ビジネスを成功させる。
それが、この男のやり方だったはずだ。
オレはジジイの視界に入るように首を突き出して、睨みつける。
「遺書なんざ渡さねエ。自分で渡せ。オレはもう行く。――3日後、来いよ。待ってるからな」
ジジイは、突っ返そうとした封筒と同じものを懐からもう一枚出し、ひらひらと振る。
「オレも持ってる。何も難しいことは頼んじゃねえ、渡せ、と言ってるだけだ。」
「・・・」
息を捲いて黙り込むオレに、バリーがそっぽを向いたまま再び呟きだした。
「なあ、アイツのダチって知ってるか」
「あン?」
「誰か知ってるか?」
それがなんだ、と思いながらオレは答える。
「シラネェよ」
「家族や恋人は?」
「・・・・・・・・何が言いたい」
バリーがまた煙をふかした。
「いつまでたっても世話のかかるガキンチョなのさ」
「・・・じゃあなおさらだ。遺書なんざ渡せねえ」
するとバリーはやっとこちらに顔を向けて、睨むようにオレを見上げる。
「しつけえな、遺書じゃねえってんだろ。いいか、仕事があるんだ。仕事が、な」
オレは眉をひそめる。
意味がわからない。
「いいからもう行け」
バリーは、訝しげに睨みつけるオレを追っ払うように、シッシッと手の甲を振る。
「クソ、*****ジジイが!」
オレは、唾を吐いてその場に背を向けた。
バリーは、最後までこちらを見なかった。
なあボーイ、俺がいなくなったら誰がお前のオムツを取るんだ?
大空のコクピットの中にゃ、お前さん以外の一体誰がいるってんだ?――
[2005年11月25日 午後4時32分]
一通り収録・編集し終わった私は、機材をキャリーバックにしまい、帰り支度をしているところだった。
ピクシーはそんな私に精悍な笑顔で笑いかけ、「頑張れよ」と付け足して足早で拠点へと戻っていく。
――たった二時間の出会いだった。
だが、私は私の人生を大きく変える二時間を過ごすことができたように思う。
私の覚悟は固まっていた。
私は必ずこのメッセージを番組にしなければならない。
彼らの残した飛跡、そして託されたメッセージを次に伝えるのは――私の役目なのだ。
「なあ、肝っ玉」
歩み去っていくピクシーの背中にちらちらと目を配り、口元に人差し指を当てながら、シモンが私の耳元に囁きかける。
「これ、あいつには内緒な。」
彼はわざわざ前置きをしてから、続きを呟いた。
「あいつ、ぶっきらぼうだが意外に繊細なんだ。」
「え?」
「たぶん――今回の取材を受けたのも、あいつ自身、もう誰かに話してしまいたかったからなんだろうな。」
思い起こされるピクシーの瞳は力強く、とても彼が言うような”delicate”な光を秘めていたとは思えないほど――迷いのない、真っ直ぐな瞳をしていた。
シモンには、たかが数時間顔を合わせただけの私とは違う、戦友としての彼の素顔が見えているのかもしれない。
憮然とした表情のままの私に、彼はさらに続ける。
「”どうしてこんな命がけで、自分を連れて行ってくれるのか”――あんた、何度も俺に訊いたよな。」
私はかすかに頷く。
そう、その疑問の答えは、未だ出口を見つけてはいなかった。
そんな私を諭すように、シモンが柔らかい口調で続ける。
「でもよく考えてもみな。あんたは他人事みたいに訊いてたが、――たかが取材に命かけてやってきたのは、他ならぬあんた自身なんだぜ」
私の目から鱗が落ちた。
「俺は――たぶん、あいつもだが――あんたなら信用できると思う。そして、是非そのメッセージを世界に伝えて欲しいと思ってると思う。」
「・・・」
「あんたの勤めてる報道会社がどんな規模かは知らない。だけれども、きっと――どんなにささやかでも、伝えることに意味があるんだ。きっとね。」
シモンはもう遠く見えなくなったピクシーの姿を追うように彼方を眺め続けながら、続ける。
「鉛の玉や炎をぶつけ合うだけが戦いじゃない。人には、人それぞれの戦い方があるもんさ、――戦友」
私は耳まで赤くなる思いだった。
そんな大層な呼び名を思いつくほど、自分のしていることを振り返ったことがなかったからかもしれない。
シモンはそんな私を見て、いつもと変わらぬ笑顔で呟くように付け足す。
「俺も、――皆もきっとまだ時間が必要だ。あいつのように、考える時間が」
その言葉は、私の耳に不思議と馴染んだ。そして、妙に残った。
この地の日が落ちるのは早い。
私は、次の朝一番に出発することにし、その日は彼らの拠点で一緒になって休ませて貰った。
私の旅は、ようやく終わりを迎えようとしていた。
そう、あとは鬼神に会うだけだ。
”片羽”はてっきり鬼神の居場所を知っているものとばかり思っていたのが、実は彼も知らないらしい。
私の当たった彼の足跡は、彼の姿をおぼろげに霞ませ、その行く先をも拭い去っていた。
”鬼神”は、その歴史と共に完全にその姿を消してしまったのかもしれない。
私は彼に会いたい気持ちもあった。
だが、不思議なことに――もはや、彼に会う必要がない気もしていた。
何故かは分からない。
だが、私の中で鬼神に対する執着は、今ややんわりと薄らぎつつあった。
それこそ、ピクシーのいう鬼神の”呪い”とやらから私が開放されつつある証拠なのかもしれない。
翌朝、霞がかる地に両足を付け、大事に抱えてきたキャリーバックをぶら下げ、私はジープの前に佇んでいた。
負傷したはずのシモンは、その日も時刻ピッタリに私の前に現れ、精悍な笑顔と共に朝の挨拶を投げかけてくれた。
その後ろにはやや眠そうな顔で立つピクシーの姿があった。どうやら、わざわざ見送りに来てくれたらしい。
「何もお前が行かなくともいいんじゃないか?」
ピクシーが、心もち庇うように重心を退けられたシモンの左足を見つめながら呟く。
「いいんだよ、俺が行きたいんだから。」
「はいはい」
その答えを予想していたように、彼は大きなあくびを返した。
そんなピクシーを見て、私の荷物を荷台にくくりつけてくれながら、シモンが問いかける。
「眠そうだな。大丈夫か?」
「ああ・・・何故か今日はよく眠っちまった。久しぶりに夢まで見たよ」
「ほう?どんな夢だ?」
「とりとめもない夢さ。――昨日あんな話をしたから、昔のことでも思い出しちまったのかもな」
ピクシーは、軽く肩をすくめてみせる。
「まぁ――怪我人は居ても邪魔なだけだしな。のんびり行って来い」
「言ってくれる」
二人はお互いににやりと笑うと、その距離を少し開けた。
シモンがジープのエンジンをかける。
けたたましい音を立てて、車体がぶるんと震えた。
私は、苦笑なのか、微笑なのか肩頬を吊り上げたままのピクシーに向かって、大きく手を上げた。
「有難う、――貴方の言葉、必ず伝えます!」
ピクシーは、笑みを深くすると、軽く手を挙げ返してくれた。
その姿はやがて、回るタイヤが吐き出す土煙に隠れ、見えなくなった。
その煙が晴れるころに再び振り向くが、”片羽”の姿はもうそこにはなくなっていた。
私は最後まで握り締めていた紙片を、もう一度だけ見返し、――
ぐしゃりと潰してポケットに放り込む。
そう、これは――
壊された欠片。
”片羽”が語った通り、今となっては、もう意味のない言葉なのかもしれない。
だが私は、意味を知りたかったこの言葉を、彼に伝えてはいけないような気がしたのだ。
”なんもかんも明るみに出せばいいってもんじゃない”
何故だか馬車引きの灰色の瞳が目蓋の裏に浮かんだ。
それは記者としてのカンというよりは、人としての第六感だったのかもしれない。
”新しい世界への門は開かれた”
THE GATE TO THE NEW WORLD HAS BEEN OPENED.
”我が魂は風となり その門へといざなう”
MY SOUL SHALL BE THE WIND THAT ENTERS THE GATE.
”眠りし王の目覚めるとき”
WHEN THE SLEEPING KING AWAKES,
”私の肉体も蘇るだろう”
MY BODY, TOO, SHALL SURELY RISE.
「あいあィ、こちらマッディマット・・・なんだ鬚オヤジか。どうした?――あン?・・・いや、出れるぜ?なんなら自家用機で・・・・ちッ、たまにはオレにも飛ばせろい。・・・ああ、四時な。」
そう言って、一方的に切ろうとした電話の向こうで、バリーがなおも何か続けようとする。
「あン?なんだって?・・・・」
だが、オレが聞き返した途端、バリーはウントモスントモ言わなくなった。
なんだ、アイツ。
そう思ってオレは手に持った受話器を見やる。
「・・・・いッけね」
受話器に繋がった電話線は、手に持ったハンダのおかげで、途中でプッツリ途切れていた。
待ち合わせ場所に現れたバリーは、いつになく渋い顔をしていた。
「どうしたィ、いつになく渋いツラじゃねーカ」
オレ達は野郎同士で並んで駅前のベンチに腰かける。
「渋み薫る燻し銀と言ってくれ」
「へッ」
相変わらず口の減らないジジイだぜ。
「・・・・。」
バリーは、渋い表情のまま隣に設置された灰皿の横で煙草を吸い始めた。
パイロット上がりのこのジジイは、昔こそ”パイロットが喫煙なんぞ言語道断!”と公言していたもんだが、最近は丸くなッちまったのか、めっきり主張しなくなった。それどころか、自分でも吸いやがる。
「・・・アンタ、老けたナ」
「どいつもこいつも、ひとと見りゃ同じ事ばっか言いよってからに」
「褒めてんのサ」
バリーが煙をフーッと吐き出す。
通行人が、こちらを睨みつけながら通り過ぎる。煙もふかしにくい時代になったもんだ。
「よォ、それで渡すもんってァーなんなんだ?」
バリーは黙って懐から一枚の封筒を取り出すと、オレに投げるように渡した。
「ボーイに渡せ」
「オイ、こりゃなんだい」
オレは眉を持ち上げる。
「オレは郵便屋じゃねエ」
バリーは大きくため息をつくと、「いいから渡せ」とだけ言った。
それきりこちらに目を合わせないまま煙をふかし続ける。
オレは目を剥いてジジイの耳元で再び怒鳴る。
「おい、フザケンな。自分で渡せ」
「大きな声で言わんども聞こえとる。」
「オレはやんねぇ、奥サンにでも渡してもらヤいいじゃねェか」
強引に突き返すが、バリーはそっぽを向いたまま受け取らない。
しばらくして、オレと目を合わせず、遠くを見たまま呟くように言い訳をした。
「長期の仕事が決まった。そいつはアイツの報酬なんだが、渡せないかもしれねぇ。渡しといてくれ。」
――嘘だ。
目の前のジジイは、どんなときだって営業を他人任せにしたことはない。事後報酬だって例外はねェ。必ず、自分の足で行き、自分の手で仕切り、ビジネスを成功させる。
それが、この男のやり方だったはずだ。
オレはジジイの視界に入るように首を突き出して、睨みつける。
「遺書なんざ渡さねエ。自分で渡せ。オレはもう行く。――3日後、来いよ。待ってるからな」
ジジイは、突っ返そうとした封筒と同じものを懐からもう一枚出し、ひらひらと振る。
「オレも持ってる。何も難しいことは頼んじゃねえ、渡せ、と言ってるだけだ。」
「・・・」
息を捲いて黙り込むオレに、バリーがそっぽを向いたまま再び呟きだした。
「なあ、アイツのダチって知ってるか」
「あン?」
「誰か知ってるか?」
それがなんだ、と思いながらオレは答える。
「シラネェよ」
「家族や恋人は?」
「・・・・・・・・何が言いたい」
バリーがまた煙をふかした。
「いつまでたっても世話のかかるガキンチョなのさ」
「・・・じゃあなおさらだ。遺書なんざ渡せねえ」
するとバリーはやっとこちらに顔を向けて、睨むようにオレを見上げる。
「しつけえな、遺書じゃねえってんだろ。いいか、仕事があるんだ。仕事が、な」
オレは眉をひそめる。
意味がわからない。
「いいからもう行け」
バリーは、訝しげに睨みつけるオレを追っ払うように、シッシッと手の甲を振る。
「クソ、*****ジジイが!」
オレは、唾を吐いてその場に背を向けた。
バリーは、最後までこちらを見なかった。
なあボーイ、俺がいなくなったら誰がお前のオムツを取るんだ?
大空のコクピットの中にゃ、お前さん以外の一体誰がいるってんだ?――
[2005年11月25日 午後4時32分]
一通り収録・編集し終わった私は、機材をキャリーバックにしまい、帰り支度をしているところだった。
ピクシーはそんな私に精悍な笑顔で笑いかけ、「頑張れよ」と付け足して足早で拠点へと戻っていく。
――たった二時間の出会いだった。
だが、私は私の人生を大きく変える二時間を過ごすことができたように思う。
私の覚悟は固まっていた。
私は必ずこのメッセージを番組にしなければならない。
彼らの残した飛跡、そして託されたメッセージを次に伝えるのは――私の役目なのだ。
「なあ、肝っ玉」
歩み去っていくピクシーの背中にちらちらと目を配り、口元に人差し指を当てながら、シモンが私の耳元に囁きかける。
「これ、あいつには内緒な。」
彼はわざわざ前置きをしてから、続きを呟いた。
「あいつ、ぶっきらぼうだが意外に繊細なんだ。」
「え?」
「たぶん――今回の取材を受けたのも、あいつ自身、もう誰かに話してしまいたかったからなんだろうな。」
思い起こされるピクシーの瞳は力強く、とても彼が言うような”delicate”な光を秘めていたとは思えないほど――迷いのない、真っ直ぐな瞳をしていた。
シモンには、たかが数時間顔を合わせただけの私とは違う、戦友としての彼の素顔が見えているのかもしれない。
憮然とした表情のままの私に、彼はさらに続ける。
「”どうしてこんな命がけで、自分を連れて行ってくれるのか”――あんた、何度も俺に訊いたよな。」
私はかすかに頷く。
そう、その疑問の答えは、未だ出口を見つけてはいなかった。
そんな私を諭すように、シモンが柔らかい口調で続ける。
「でもよく考えてもみな。あんたは他人事みたいに訊いてたが、――たかが取材に命かけてやってきたのは、他ならぬあんた自身なんだぜ」
私の目から鱗が落ちた。
「俺は――たぶん、あいつもだが――あんたなら信用できると思う。そして、是非そのメッセージを世界に伝えて欲しいと思ってると思う。」
「・・・」
「あんたの勤めてる報道会社がどんな規模かは知らない。だけれども、きっと――どんなにささやかでも、伝えることに意味があるんだ。きっとね。」
シモンはもう遠く見えなくなったピクシーの姿を追うように彼方を眺め続けながら、続ける。
「鉛の玉や炎をぶつけ合うだけが戦いじゃない。人には、人それぞれの戦い方があるもんさ、――戦友」
私は耳まで赤くなる思いだった。
そんな大層な呼び名を思いつくほど、自分のしていることを振り返ったことがなかったからかもしれない。
シモンはそんな私を見て、いつもと変わらぬ笑顔で呟くように付け足す。
「俺も、――皆もきっとまだ時間が必要だ。あいつのように、考える時間が」
その言葉は、私の耳に不思議と馴染んだ。そして、妙に残った。
この地の日が落ちるのは早い。
私は、次の朝一番に出発することにし、その日は彼らの拠点で一緒になって休ませて貰った。
私の旅は、ようやく終わりを迎えようとしていた。
そう、あとは鬼神に会うだけだ。
”片羽”はてっきり鬼神の居場所を知っているものとばかり思っていたのが、実は彼も知らないらしい。
私の当たった彼の足跡は、彼の姿をおぼろげに霞ませ、その行く先をも拭い去っていた。
”鬼神”は、その歴史と共に完全にその姿を消してしまったのかもしれない。
私は彼に会いたい気持ちもあった。
だが、不思議なことに――もはや、彼に会う必要がない気もしていた。
何故かは分からない。
だが、私の中で鬼神に対する執着は、今ややんわりと薄らぎつつあった。
それこそ、ピクシーのいう鬼神の”呪い”とやらから私が開放されつつある証拠なのかもしれない。
翌朝、霞がかる地に両足を付け、大事に抱えてきたキャリーバックをぶら下げ、私はジープの前に佇んでいた。
負傷したはずのシモンは、その日も時刻ピッタリに私の前に現れ、精悍な笑顔と共に朝の挨拶を投げかけてくれた。
その後ろにはやや眠そうな顔で立つピクシーの姿があった。どうやら、わざわざ見送りに来てくれたらしい。
「何もお前が行かなくともいいんじゃないか?」
ピクシーが、心もち庇うように重心を退けられたシモンの左足を見つめながら呟く。
「いいんだよ、俺が行きたいんだから。」
「はいはい」
その答えを予想していたように、彼は大きなあくびを返した。
そんなピクシーを見て、私の荷物を荷台にくくりつけてくれながら、シモンが問いかける。
「眠そうだな。大丈夫か?」
「ああ・・・何故か今日はよく眠っちまった。久しぶりに夢まで見たよ」
「ほう?どんな夢だ?」
「とりとめもない夢さ。――昨日あんな話をしたから、昔のことでも思い出しちまったのかもな」
ピクシーは、軽く肩をすくめてみせる。
「まぁ――怪我人は居ても邪魔なだけだしな。のんびり行って来い」
「言ってくれる」
二人はお互いににやりと笑うと、その距離を少し開けた。
シモンがジープのエンジンをかける。
けたたましい音を立てて、車体がぶるんと震えた。
私は、苦笑なのか、微笑なのか肩頬を吊り上げたままのピクシーに向かって、大きく手を上げた。
「有難う、――貴方の言葉、必ず伝えます!」
ピクシーは、笑みを深くすると、軽く手を挙げ返してくれた。
その姿はやがて、回るタイヤが吐き出す土煙に隠れ、見えなくなった。
その煙が晴れるころに再び振り向くが、”片羽”の姿はもうそこにはなくなっていた。
私は最後まで握り締めていた紙片を、もう一度だけ見返し、――
ぐしゃりと潰してポケットに放り込む。
そう、これは――
壊された欠片。
”片羽”が語った通り、今となっては、もう意味のない言葉なのかもしれない。
だが私は、意味を知りたかったこの言葉を、彼に伝えてはいけないような気がしたのだ。
”なんもかんも明るみに出せばいいってもんじゃない”
何故だか馬車引きの灰色の瞳が目蓋の裏に浮かんだ。
それは記者としてのカンというよりは、人としての第六感だったのかもしれない。
”新しい世界への門は開かれた”
THE GATE TO THE NEW WORLD HAS BEEN OPENED.
”我が魂は風となり その門へといざなう”
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