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あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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その日は、いつもの空がずば抜けて青かったのを覚えている。





















[2005年11月20日 午前9時21分]


ジリリリリリ、ジリリリリリ・・・



ブラインドの隙間から差し込む朝日が爽やかな日だった。



ジリリリリリ、ジリリリリリ・・・



やかましくがなり立てる電話の呼び出し音は、諦めるという言葉を知らずに鳴り続けていた。



ジリリリリリ、ジリリリリリ・・・



20回ほどコール音が鳴ったころだろうか。
ようやく、電話の置かれている部屋の木戸が押され、裸足にスリッパ、片手にこんがり焼けたトーストを載せた男がやってきた。
そしてもう一回ほど電話が催促するのをを見守ると、ようやく受話器を手に取った。
「・・・・・Hello?」
『相変わらずの放置プレイか、ボーイ』
電話の向こうの相手が、呆れた様に息を吐く。
どうやら、裸足スリッパの男の知り合いらしい。
「ちょっとぐらい焦れた方が燃えるだろう」
『どの口が言ってんだか』
その声はほんの少ししわがれており、声からは中年から初老の男であろう事が推測できる。
『ボーイ、お前さんの耳に入れておきたい話があってな』
ボーイと呼ばれた人物は、手にしたトーストを電話口でバリッと齧った。
『電話じゃなんだからな。いつもの場所で待ってるぜ』
「またろくでもない話か」
『いや?――っと、それからもうひとつあったんだった。』
男が、またトーストを齧る。
『どうだ、久しぶりに?』
男の口の端が、僅かに持ち上げられた。
「――悪くない」



指定された場所は、だだっ広い多目的広場だった。
楕円形に整備された土のグラウンドの周りには、ゆるやかな土手が作ってあり、そこに座って試合の模様を観戦できるようになっていた。
今は少年たちが真剣な顔でひとつのボールを蹴り合って、サッカーのグラウンド代わりにしている。
男は、茶色い皮のジャケットを着込み、真ん中の太くなった葉巻から紫煙を立ち上らせ、その様子を見るともなしにぼんやり眺めているところだった。
その背後で、草を踏む音がする。
「よお、待たせたな」
話しかけた主は、男の五歩ほど手前に来てとまった。
男がやんわりと声の主を見やる。
年のころは50半ばだろうか、そろそろ黒髪に白いものが混じり始めている。
顔周りは髭だらけで、輪郭すらわからないくらいに顔が黒い髭に覆われていた。
体形はずんぐりむっくりとした小柄な体形で、短い足は立っていても歩いていてもO型に開かれていた。
そしてその足で、男の横の草原にしゃがみこむ。
「よっこらしょ」
「・・・老けたな」
紫煙を立ち上らせながら、眉ひとつ動かすことない眠たげな瞳で吐き出された感想に、小柄な男が言葉を返す。
「馬鹿言え、これでも現役だ」
「いいトシなんだ、さっさと引退しちまえ」
男がふーっと煙を吐き出す。
「そうもいかん。大体アレだぞ、オレが引退しちまったらお前のオシメを取り替えてくれるヤツがいなくなっちまうだろう」
「自分のケツにつける方の心配でもしてな。」
「いっちょ前に言いおって。・・・少し歩くか」
小柄な男の言葉で、二人は立ち上がる。
立ち上がってみると、頭二つ分ほども背の違いがあった。
ちぐはぐな高低差で歩き出しながら、小柄な男が口を開く。
「・・・話ってのぁ、昔の話さ」
サッカー場から、子供たちの歓声が上がる。
「時代は流れてるはずなんだがなあ、過去って奴は執念深くて、こっちの都合なんぞお構いなしでいつまでも追っかけてきやがる。」
「・・・10年前の話か」
小柄な男はため息を髭の間にしまいこむ。
「――コイツぁ、まさに過去からの仕事だ。」




[2005年11月21日 午後4時11分]

その日、私は言われたとおりの場所で一人腕の中に納まるほどの小さなキャリーバックを両手で抱えて待っていた。
私の名前はBrett Thompson――ブレット・トンプソン。今はオーシアのテレビ会社、OBCで記者をしている。担当は軍事関係のネタ漁りだ。
最近、政府によって10年前のベルカ戦争の情報の一部が公表された。
私は仕事柄、すぐにその資料を取り寄せた。
――だが、取り寄せた資料は、拍子抜けするほど中身のない、申し訳程度の内容のものだった。
私はこのことをネタに番組を組むつもりでまでいたため、いささか――いや、非常に落胆した。
だが、私は諦めなかった。
入手した資料を、何度も何度も読み返した。
すると、あるとき私は奇妙な類似点に気付いたのだ。
資料の中で語られる”鬼”という単語。
他の文面の中で、この単語は明らかに浮いており、当初から気になっていた。
私はその単語に注目して、初めからその公開された資料を読み返してみた。
だが、いくら資料の最後まで読み通そうが、隅から隅まで目を皿のようにして読み返そうが、その”鬼”についての詳しい記述は、どこにも書かれることがなかった。
だが、事が起こるたび、戦況が変わるたび、その単語――”The daemon”は繰り返しその姿を現した。
最初は、誰か特定の人物を指しているのだと思った。
いや、読み返してみて、それは戦争という混乱に住む、歴史の流れを変える未知の流れそのものを指しているのだと思った。
だが、この資料では納得が行かず、裏資料にまで手を出したところで初めて私は確信した。

”鬼”という暗号。
――これは、ある特定の人物に関する記述だ、と。

それから私は、まるでその鬼神に魅入られたかのように、軍や大学の文献、入手不可能なはずの裏資料、出所不明の裏情報に手を出し始めた。
この”鬼”には、何かがある。
ただの御伽噺か、――それとも、この戦争の隠された闇の暗号なのか。

私は、あらゆる資料とあらゆるツテを使って、ベルカ戦争当時のエースパイロット、戦場、証言、文献――”鬼”に関連のありそうなものは何でも貪欲に調べ尽くした。
そして私は今――
存在の浮かび上がってきた”鬼”に最も近しいと思われる人物に、接触を図ることができるかもしれない場所まで来ている。
もしかしたら、その”鬼”の持つ狂気が乗り移ってきて、私にそうさせているのかもしれない。
そう思えばこの人通りの多い、寒風に吹き晒される駅のホームで待ちぼうけをくらっていたとしても、納得できるというものだ。

実に待つこと1時間。
私は、ようやくこの待ちぼうけの状態から開放されるときを迎えることが出来た。
それは、ちょうど人を満員に乗せた電車が駅に滑り込んできた時だった。
私の後ろにも、たくさんの人が並んでいた。
私はまだ電車に乗ることが出来ない。指定の場所はここ、首都オーレッド行きの列車の出入りする、3番ホームの2番乗降口の柱の下、だった。
私は人々の群れを避けようと、後ろに下がろうとした。
すると、私の背中になにやら固いものがゴツリと当たった。
私は最初、誰かの荷物に当たったのかと思い、「すみません」と振り返ろうとした。
だが、振り返ろうとした反対側の肘を密かに後ろから掴まれ、周りの雑踏の音にかき消されるくらいの小さな声が静止の言葉を囁いた。
「そのまま真っ直ぐ」
私は瞬時に状況を悟り、血の気が一気に引いた。
鼻にかけた真鍮縁の眼鏡がずり落ちるのも構わず、ごくりと息を飲んで言われるがままに後ろを振り向くことを自制する。
こんな状況で背中に突きつけられるもの――それは、銃としか考えられない。
降車口ぴったりに停車した電車が、入り口を開いてたくさんの人間を吐き出しにかかる。
その人間たちが降り終わらないうちに、せっかちな人の群れが内部になだれ込む。
私は、押されるがまま電車の中に入り、入り口脇に直立不動で待機した。
私の後ろに立った何者かは、まだ私の背中に銃を押し付けているようだった。
ホームのベルが鳴り、人の波に出車の合図を告げる。
だが、電車にはまだ押し入ろうとする人の波が、あとからあとからなだれ込んできていた。
電車のドアが閉まる。
その瞬間、後ろに立っていた男が私を突き飛ばした。
私はキャリーバックごと電車の外に突き出され、ホームに膝を着く。
その後ろで、電車のドアがエアーの吹き出る音をたてて閉まった。
(電車が行ってしまう――!)
慌てて電車にすがり付こうとする私の襟首を、誰かがぐいと捕まえる。
「電車はもういいんだってば」
地面に四つんばいになり、ずれた眼鏡の視界で見上げる私の視線の先に立っていたのは、果たして平凡な顔つきの、中肉中背、これといって特徴のない壮年の男性だった。
皮の靴にこれといった特徴のない綿ズボン、上に皮製の茶色のジャケットを羽織っている。眼鏡などはしておらず、アッシュブロンドの髪は短くもなく、長くもなく、適度な清潔さで整えられていた。年のころ30代後半の男性。
「あんたは・・・」
そして私はその男が立って左手に持っているものに気付く。
飲み干されたジュースのビンだった。
私の険悪な顔に気付き、男は軽く肩をすくめて見せた。
「ほんのジョークさ」


私たちは電車に乗ることなく駅の改札口から外に出ると、駅の裏に設けてある駐車場に停めた車にキーを挿して出発した。
「なんで駅で待ち合わせたんですか?切符まで指定してきたのに。」
「あんた、何処へ行きたいんだ?」
流れる景色は、既に日が沈みかけて濃紺の闇と、赤く焼け付く空とにはっきりと分かれていた。
男のその口調はオーシアとも、その周辺諸国のものともわからない、標準的な発音で構成されていた。
灰色の瞳が夕焼けに染まって、赤く輝いている。
「・・・あなた、本当にPMCの人なんですか?」
すると、男は鼻で笑うように肩をすくめハンドルを緩やかに調節しながら答える。
「さてね」
窓の外では、景色が飛ぶように流れ去っていた。
車にまで乗ってしまっては、もう逃げ場はない。
「・・・・・・」
私は、観念することにした。
ええい、自分を信じようじゃないか。
腹を据えてシートにどっかりと腰を下ろす私を横目で見て、その男は喉の奥でククッと笑った。
「あんた、肝が座ってるな」
「伊達に記者やっちゃいません」
「トンプソン――っていったっけか」
私はぐっと息を詰まらせた。
これがどういう意味を持つのか。まさかここでズドンなんて撃たれやしないだろうな――
「そんなに警戒しなさんな。俺はこう見えても一応お迎えの馬車引きなんだぜ」
どうやら、私の選択は正しかったらしい。
ホッと息をつく私に、彼は前方を向いたまま、私にリラックスするように言う。
「少し長く走るからな。」
キャリーバックを両手で抱え、私はもう一度先ほどの質問を繰り返した。
どうやら私は、こんな状況でも自分の好奇心を満足させないと気がすまない性分をしているようだ。
すると、彼はやれやれというように首を振ると、丁寧に説明してくれた。
私の後ろを誰かが尾行ていたこと。
電車に乗ってやり過ごしたこと。
私が行こうとしている土地のこと。
――そして、私が暴こうとしている真実を煙たがる存在のこと。
「お前さんはどこにいくつもりだったんだ?まさか旅行気分で行けるとか考えてないだろうな?」
私は口をぎゅっと結び、キャリーバックを握り締めた。
軽くしか彼は触れなかったが、あちこちを取材して回るうちに、いつも誰かに見られているような感触がついて回るようになったのは、私もたしかに感じていた。正直、不穏なヤバさに薄々勘付いてはいたのだ。
だが、ここで帰るような根性なしなら、今頃ジャーナリストなんてやってない。
「覚悟はできてます。――手段には詳しくありませんが・・・」
すると何故か彼はこちらの背筋がひやりとするような顔でニヤッと笑って、「上等だ」と一言呟いた。

それ以後、彼との会話はなかった。



その場所に着いたのは、翌朝の7時すぎだった。
私は大半を寝ていて、何処をどうやって走ってきたのか、全く記憶にない。
気がつけば運転してきた彼は消えており、私は朝日の差し込む車内に一人で取り残されていた。
ドアを開けて外に出てみると、そこは車庫の中だったのか、半分降ろされたシャッターから入り込む光が作り出した白黒のコントラストが、私の目を焼いた。
そしてその敷居をくぐって外に出た私は我が目を疑う。

目の前に広がるのは、海、海、海――

私は呆然としてキャリーバックを抱えたまましばらく口の中に塩気を含んだ風を存分に吹き入れていた。
ここは、どこだろう?
呆然としながらもしばらく流れ着く波と戯れながら一人で海岸線をうろうろしてみるものの、唐突に開けた目の前の景色に圧倒され、思考はまるで働かなかった。
だが、彼は確かに「連れていく」と言ってくれた。
きっと、今は待つ段階なのだろう。
私は、あてもなくうろうろするよりも、もっと実質的なことを考えることにした。
現在最も”鬼”に一番近しい人物と思われる人物――”片羽”と呼ばれる人物について。


――”片羽”に会ったら何を聞くか。

ここまで私を駆り立てるものはなんなのか。
そして、私はその真実を暴いて――何がしたいのか。

考えは形にはなっていた。言葉にするには、もう少しの整理が必要だったが。
考えながら、やはりうろうろと砂浜を歩き回る私の姿を見かねたのか、轟音に気付いてふと顔を上げる私の視界の先に、年のころ50前後、小柄でずんぐりとしたO脚の中年男性が現れる。
そして私の横まで来ると、心配というよりはやや呆れた風情で私の顔をみながら言う。
「お前さん、ちょっとは落ち着け。――中に入って休んだらどうだ?」
そう言われて初めて、砂浜と反対側――丘に、建物と、その奥に、今も飛行機が出入りする長大な滑走路があるのに気付いた。
――ここは、空港だった。



なるほど、考えてみれば当たり前の終着点である。
私の集めた情報によれば、彼は、海を隔てたお隣の大陸――ユークトバニアに居るのだから。
建物の中に入ると、その中年男性に、小さな事務所のような場所に通された。
そこには先客が座っており、その先客は私の顔をみるなり片手を上げて挨拶して見せた。
「よう、姫様。随分よくお眠りだったらしいじゃねィか」
その男は白い肌に白い歯を剥きださせ、ニッと笑った。少しちぢれた短い黒髪が印象的な男だった。
私はつられて笑顔を返す。片頬が引きつってなければ、完璧だったのだが。
「お前さんもそんなにウロウロせずにここで少し休んでおけ」
O脚の男が自らもソファにどっかりと腰掛けながら、私に言う。
その隣では、黒髪の男がこちらを見つめてニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべていた。
この男も、あの男も、皆何かを知っている。知っていて、隠している。
――だが、私はあえて追求しようという気にならなかった。
何故なら、否が応でもあとから解ることになるような気がしたからだ。




[2005年11月22日 午後2時21分]


ソファーでキャリーバックを抱きしめて眠りこけていると、果たして夜中の二時ごろに、昨朝の男に揺り起こされた。
そして暗がりでもよくわかる髭もじゃの顔を近づけて大きな声で囁く。
「お前さんいつまで寝コケとるんだ。時間だぞ!」
私は瞬時に頭が冴え渡る思いで立ち上がった。

ついに、ついにユークトバニアへ渡れる。
あの、”片羽”に会える!

理由は、まだ言葉になっていなかった。
だが、形にはなっていた。
私は、小柄な男に案内されるがまま、格納庫のような場所まで歩いてきた。
そこに待っていた光景は――

はたして、目の前に立っているのは車で迎えに来てくれた男だろうか?
私は、人の顔を見分けることについては自信がある。
だが、目の前の壮年の男性はどうみても――
そう、どうみてもフライト・スーツを着込んでいたのだ。
そして、その後ろで格納庫の明かりに照らされるその物体は――
「せ、・・・戦闘機・・・・・・」
私はそれ以上は続けられずに、絶句した。
せいぜいが個人用の長距離用飛行機や輸送機で大洋を渡るのかな、なんて考えていたのだ。
そんな私の表情をみて、男はこの上なく楽しそうな顔でにや~っと笑った。

さ、さては・・・
みんなこれを隠していたのか・・・・・・!!・・・

私は今更ながらに皆のニヤニヤ顔が思い出されて悔しくなった。教えてくれたっていいじゃないか!
そんな私を見やって、アッシュブロンドの男がその灰色の目で私の瞳を真っ直ぐに覗き込んで言った。
「さて、どこまで肝が据わってられるか、試させてもらおうじゃないか」



格納庫から出てきたそれは、複座式F-15だった。
それぞれの両翼が紺色にペイントされており、尾翼には、一筋の赤い線の入った羽を咥えた鷹が空と海と大地をその翼で抱え込むエンブレムがペイントされている。所属や部隊名は書いていなかった。
機体番号は89。ここにも所属部隊は見当たらない。
ぐるりと前に回って見てみるが、兵装はなし。機体側面が丸く湾曲していることから、コンフォーマルタンクが標準で装備されているE型であることが分かる。
両主翼の下にドロップタンク、エアインテーク側面に丸い密着型コンフォーマルタンクが計5つもついており、恐らく中は満タンであろう事が想像できる。完全な遠出仕様だ。
その機体の足元で整備員なのだろうか、先ほどの黒髪の男性がせわしなく整備を行っている。
「これって・・・」
個人で所有するにはあまりに高価といわざるを得ない、亡国の国威の象徴のような機体――ストライクイーグルなんじゃないだろうか。
こんなものを所有できる会社というのは、一体どのような組織なのか。
私は昨日に引き続いて幾度目かにまた、背筋が寒くなった。
果たして私の想像は当たっていたようで、コクピットの中には同じような大きさの液晶パネルがいくつか並列して設置されていた。
馬車引きの彼が前で操縦し、私はその後ろに乗るのだろう。
私が何も操作できなくても大丈夫なんだろうか?・・・
そんな不安を抱えながら、フライト・スーツに着替え、もと着ていた服をカバンに詰め込み、簡単すぎるほどの説明を受けて慎重にシートに座る。
「おっと忘れるところだった」
私の身の回りのセッティングをしてくれ、自分の座席に戻るために梯子を降りかけていた操縦士がまた戻ってきて、私のシートのすぐ下を指して言う。
「これが射出――脱出装置な。必要になったらグリーンにしろというから、危なくなったらこっちのレバーを顔を前に向けたまま引くんだ。まぁ、用もないうちから引いて海に飛び込んでくれても構わんが・・・飛ぶならどうか一人で飛んでくれ」
「あ、危なくなったらって・・・?」
不思議そうな顔で尋ねる私に、彼はニッコリ笑ってこともなげに言う。
「撃墜されたら。」
「・・・・・・」
そのときの自分の顔を表現する言葉を、私は知らない。



機体を滑走路に乗り入れる頃になっても、まだ朝日は差してなかった。時刻は三時すぎ。
≪機体のご機嫌は上々だ。それじゃま、空の旅と行きますか≫
操縦士は、そう言ってエンジンの出力を上げると、滑り出していた機体のアフターバーナーに点火した。
≪エンジンよし、離陸する≫
ガクンと尻を蹴飛ばされたように加速する機体のコックピットから、先ほどの男衆2人が、滑走路脇で見守っているのがちらりと見えた。
そうしている間に機体はすんなり浮き上がり、先ほどまでうろちょろしていた砂浜をあっという間に景色の一部にして大空へと飛び込む。

「・・・本当に、行っちまいやがった」
片手を額の上に当てて長めていた小柄な親父――ラッシュがぽつりと呟く。
「しかしあの程度の小細工では、連中も長くは騙されんだろう。行き先も薄々わかっているだろうしな。」
「相変わらずムチャクチャばっかするヤツだぜ。クレイジー*****めが」
その隣に立つ男――マットが顔をしかめながらべっと唾を地面に吐き捨てる。
「ウスティオか・・・」
ラッシュがまるで鉛でも含んでいたかのように、重い息を吐き出す。
「頼れる大佐どのになっているといいんだがな。」
大小二人の男は、もはや景色の染みとなった機体の後姿をただ無言で見送った。



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