あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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ベルカ戦争を駆け抜けた鬼神の姿を、登場人物の視点から振り返る
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カテゴリー「コラム?語り」を「コラム・ネタ・語り」に変更
2008/08/22-------
ACEたちの欠片に前からあったのを追加
2008/08/08-------
ACEたちの欠片に一文
2008/07/14-------
機体操作・小ネタ集に
当たり判定追加
2008/07/11-------
我が家のキャラクター紹介に
大量追加
2008/06/18-------
人物をラクガキするに
5~10点追加
2008/06/10-------
THE GAUNTLET #5に
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それからしばらく、私たちはなるべく急いで道なき道を走り続けた。
シモンの眉間には始終深い縦しわが刻まれており、状況もさることながら、具合も悪そうだった。
私が運転しようかと申し出てみたこともあったが、彼は無言で首を横に振ってそれを却下した。
私は、ただ彼の隣でシートに座っていることしかできなかった。
彼の体調を気遣いつつ、置いてきてしまったアルチデについて訊ねてみたが、答えは「自分のことは自分で何とかしているだろう」という、そっけないものだった。
今や私の心は、悪路の衝撃で跳ね上がる腰よりも落ち着かなくなっていた。
[2005年11月25日 午前11時41分]
ようやくたどり着いたそこは、今にも崩れそうなコンクリートの建物が立ち並ぶ街だった。
それらの頭越しに見える、頂上に有刺鉄線がぐるりと巻かれた高い壁が、おそらく”国境線”なのだろう。その内側で独立国家連合軍――通称ISAFの旗が翻る。
シモンはそんな街並みの大通りを暫く走り、やがて他の建物よりも少し頑丈そうな建物の前で車を停める。それを見て、入口で銃を持って立っていた兵が急ぎ足で歩み寄ってきた。
右手には自動小銃。頭には私たちと同じように、カーキ色のヘルメットを被っている。
彼はその目をシモンの顔から脚に流すと、開口一番に質問を浴びせかけた。
「どこかやられたのか」
シモンは血の気の失せた顔で車から降り、呻きながら答える。
「腕と脚をやられた。弾は取り出したが・・・失血しすぎた。いてぇ」
歩み寄ってきた兵に肩を借り、足を引きずりながらシモンは建物の中へと歩を進める。よくあんな状態で車を運転してこれたものだ。
彼は眉をひそめたままぽかんと突っ立つ私を振り返り、顎で建物の中を示す。
「こっちだ。来な」
私は慌てて荷台から固定してあったキャリーバックを引きずり下ろすと、そのあとを追った。
被られているヘルメットが、その衝撃で斜めになる。
――私はまだまだ、彼らのようにはなれそうもない。
通された建物の中は、ひんやりとしていて肌寒いほどだった。
時期も考え、一応二・三枚の中着を着込んできてはいたが、それでもまだ寒気を感じるほどそこは寒々としていた。
たぶん、気候のせいばかりじゃないのだろう。
珍しそうに周りを見回す私に、シモンはそこらの瓦礫を指差し、ここで暫く待つように言う。
「たぶんあいつは今の時間ちょうど境界に居るんじゃないかな。何事もなければ、二時ごろには交代で戻ってくるよ」
私は時計に目を落とす。12時5分前。
私が時計から目を戻す頃には、私の目の前からシモンも、他の兵も姿を消していた。
私は、再び独りぼっちになった。
その街は、とても静かだった。
音らしい音といえば、風でカタカタと鳴る窓枠、ビュウという風音、はためく旗の音くらいか。
時折小さな話し声と、恐らく銃のこすれる音なのだろう、カチャリという金属音が通路から聞こえてくる。
恐らく――これは平和の静けさではない。張り詰めた緊張のもつ静けさだった。
私は持ってきたキャリーバックを両手で抱え、それに額をこすりつける。
果たして、私のしようとしていることは、私を連れてきてくれた彼ら――馬車引きやシモン、アルチデの命をあえて危険に晒してまで遂行する価値のあることなのだろうか?
私は、私の好奇心を満足させるためだけに動いていないか?
彼らの命がけの仕事に、私のしようとしている仕事は見合うのか?・・・
今更ながらに、私は私――そして馬車引き、シモンを死なせてしまわなくてよかったと、心の底から感じ入る。
ここでは、人の命が軽い。
村で狙撃されたように、人が片手を上げるのと同じくらい、その命が軽い。
私の知っている”命”は、もっと重いものだ――重いものだと、今まで当たり前のように信じていた。
だが、それはここでは何の意味ももたなかった。
サインひとつで、全てが覆ってしまう世界だった。
彼ら――馬車引きやシモン、アルチデは、私の常識を超えた常識、そして次元の違う理屈で、動いているように私の眼鏡には映る。
その理由や原動力、――そして”恐怖”は、一体何処に存在するのか。
私には到底図り知ることが出来なさそうだ。
もしこのままあと1年でも2年でも戦場に居れば、私の理屈も彼らと同じように”次元の違うもの”に化けてしまうのだろうか。
それを想像して、私は言いようのない恐怖と孤独、
――そして同時に、哀しみを感じた。
一体、平和とはなにか。
戦いとは何のために行うものなのか。
彼らの命がけの信念に比べれば、私の信念など風が吹けば飛ぶほど軽いものなのだろう。
――何故なら、それに見合うほど”重い”命など、私は持ち合わせていないのだから。
[2005年11月25日 午前11時56分]
その日、私は朝から書類の整理に追われていた。
参謀部や指令本部から送られてくる、予算や編成、錬成、方針、医療、兵器――これらの決定を迫る書類が次から次へと、山のように運ばれてくる。
部隊の再編、そして縮小。
今年も減らされる予算に、私は痛む頭を抱える。
今のウスティオには、もはや傭兵部隊は必要とされていなかった。
実際、今も残っている第6航空師団の予算は年々削られ、縮小を迫られ、人員は抜け、もはや「師団」とは呼べない編成に成り下がっている。
その代わり、国家としては正規軍の充填が進み、近頃はやっとまともな質の軍隊に復旧されつつあった。
これに伴い、当時第6航空師団で生き残ったパイロットの一部は、仮想敵国であるベルカの動きを最もよく知っている者として、アグレッサー部隊という名で正規軍に移動となる。だが、他の多くの者は縮小と共に解雇され、他の戦場を求めて、散っていったというのが実情だ。
もはや、第6航空師団の駐屯するヴァレー空軍基地は、名前だけの田舎基地――ベルカ戦争前の本来の姿に戻りつつあった。
私はそろそろ、この田舎基地司令官として一生を全うする想像が、現実味を帯びてきたんじゃないかという気が――してきている。
私は目の痛む書類を脇に避け、執務室の椅子にもたれかかり、大きく息を吐いた。
・・・昼にしよう。
そんな時分だった。
誰かが執務室のドアを二度、ノックする。
私はもたれかかっていた背筋を伸ばし、姿勢を整える。
「オルトン・フィッシャー軍曹であります。バリー・ラッシュ販促員をお連れしました。」
(バリー?)
私はその名に反応するが、なるべく声には出さずに入室を促す。
「ご苦労、入れ」
案内され、入ってきたのは第6航空師団贔屓の民間軍事会社の販売促進員、バリーラッシュだった。
予算が得られず、需要もないためこの師団を見限ったのか、暫く姿を見ないと思っていた男が、また唐突にやってきたものだ。
入ってきた中年の男の後ろで、オルトン軍曹が敬礼をして、下がっていく。
入ってきたO脚の男は、勧めもしないのに勝手に来客用の椅子に座ると、大きく息を吐いた。
ため息をつきたいのはこちらだ。
「随分久しぶりだな、バリー販促員。もうとっくに見限ったのかと思っていたよ」
私は一度は退けた書類の束をまた目の前に戻すと、黙々と整理を始める。
「平時の軍隊相手に商売したって、何も美味しいものはねぇからな」
そう言って彼はポケットから煙草を取り出す。
私は目ざとくそれを見つけ、先制で釘を刺す。
「ここは禁煙だ」
「・・・」
バリーはつまらなそうにその箱をまたポケットに戻した。
「しかし司令官大佐とは、お前様も随分昇進したじゃないかね、おめでとう。」
「お蔭様で、この地の墓に名前を刻むことになりそうだよ。」
「鬼に触れちまったんだ、これくらいのタタリでぐちぐち言うない」
私はその言葉にピクリと視線を上げる。
「・・・あの男のことか」
私の頭の中で、ようやく目の前の事が繋がる。
三ヶ月ほど前に、OBC報道関係者から妙なコンタクトがあった。
最初は、一本の電話だった。
要求は、単刀直入だった。
『10年前のベルカ戦争――あのときに貴師団に所属していた、鬼神と呼ばれる人物について尋ねたい』
私はそのあまりのストレートさに度肝を抜かれたのを覚えている。
彼および彼の所属する小隊に関する記録は、公式記録からは綺麗に消されてしまったはずだ。どこでどうやってその情報を仕入れてきたのか。
私はその熱意に舌を巻きこそするが、”公式”の態度で私は彼を門前払いした。
”そんな人物はいない。”
そう、いない。彼は、いなかったことになってしまった。
私はようやくペンをデスクに置き、立ち上がる。
「――あの男が生きてるんだな?」
バリー販促員は、やっとこちらに顔を向けてニヤリと笑った。
「ただ墓に名前を刻むだけじゃつまるまい?」
[2005年11月25日 午後2時08分]
あれから二時間ほど待った頃だろうか。
ようやく私の腰を下ろした瓦礫の一角に、一人の兵士がやってきた。
「立ちな。アンタのお待ちかねのが戻ってきた」
私は口を結び、眼鏡の角度を直すと、静かに立ち上がった。
とうとう、この時が来たのだ。
私は案内の兵士からやや遅れて歩を進める。兵士は銃剣を両手に構え、それとなくこちらを警戒しながら、私をその建物に連れて行ってくれた。
「来たぜ」
入り口で声をかけ、私に中に入るように言う。
そこは、普通の民家だった。
戦いの傷痕がそこかしこに刻まれており、中はボロボロだったが、元は人が住んでいたことをうかがわせる内装だった。
階段を上がり、二階に上がってみる。部屋はひとつしかなかった。
脚を踏み入れたその部屋は、午後の柔らかい光に満たされており、ただ何もなく、広かった。
壁には花畑を映したポスターが貼ってあった。
その隣には何処へ続いているのか、光の届かない大穴が空いている。
窓は壊されたのか壊したのか、全てのガラスと窓枠がだらしなく垂れ下がっていた。
――そんな部屋の中央で、その人物は小銃を片手に、立って私を待っていた。
”片羽の妖精” ラリー・フォルク。
入ってきた私を頭からつま先まで見やり、彼は片頬を持ち上げ、心もち吹きだすように笑う。
「アンタか。こんな辺境の一兵士に、わざわざ大陸をまたいでまで取材したいとかいう変わり者は。・・・・・確かに、ブンヤっぽいな」
後半は確認というよりは、”私の頭に被っている”ヘルメットを見てのコメントなのだろう。
私は少し恥ずかしくなって、ヘルメットを脱いだ。
「・・・ブレット・トンプソンです。初めまして、――”片羽の妖精”」
その名を聞いてか、彼は笑顔の質を苦笑から失笑に変える。
そして差し出しされた私の手を、ぎゅっと握り返す。
「初めまして、トンプソン」
「・・・」
そんな彼の黒い瞳は、私が今まで見たこともないような、不思議な光を帯びていた。
そしてそれは、それまで取材用として頭の中で纏めていた私の台詞を、すべてまっさらにしてしまう力を持っていた。
ぽかんと突っ立ったままの私を見て、彼がおどけたように肩をすくめる。
「どうした?取材に来たんだろう?」
「・・・・・・。」
私は言葉も出せず、ただ二本の脚でそこに立っていた。
――正直、プロ失格だった。
しばらくしてようやく零れおちたその言葉は、会う前に頭の中で描いた、どの言葉でもない言葉だった。
「・・・ここは、違う世界なんだな。」
その言葉がきっかけになったのか、私は何故か唐突に笑い出したい衝動に駆られる。
私の頭の中で、何かの箍が外れた。
私は肩を震わすほど笑い、今まで大事に抱きかかえてきたキャリーバックに腰を下ろす。
聞きたいことは、一瞬にして決まっていた。
私は訝しげな”片羽の妖精”の顔を真っ直ぐに見上げて、言う。
「あなたは、何のために戦っているんです?」
私が運転しようかと申し出てみたこともあったが、彼は無言で首を横に振ってそれを却下した。
私は、ただ彼の隣でシートに座っていることしかできなかった。
彼の体調を気遣いつつ、置いてきてしまったアルチデについて訊ねてみたが、答えは「自分のことは自分で何とかしているだろう」という、そっけないものだった。
今や私の心は、悪路の衝撃で跳ね上がる腰よりも落ち着かなくなっていた。
[2005年11月25日 午前11時41分]
ようやくたどり着いたそこは、今にも崩れそうなコンクリートの建物が立ち並ぶ街だった。
それらの頭越しに見える、頂上に有刺鉄線がぐるりと巻かれた高い壁が、おそらく”国境線”なのだろう。その内側で独立国家連合軍――通称ISAFの旗が翻る。
シモンはそんな街並みの大通りを暫く走り、やがて他の建物よりも少し頑丈そうな建物の前で車を停める。それを見て、入口で銃を持って立っていた兵が急ぎ足で歩み寄ってきた。
右手には自動小銃。頭には私たちと同じように、カーキ色のヘルメットを被っている。
彼はその目をシモンの顔から脚に流すと、開口一番に質問を浴びせかけた。
「どこかやられたのか」
シモンは血の気の失せた顔で車から降り、呻きながら答える。
「腕と脚をやられた。弾は取り出したが・・・失血しすぎた。いてぇ」
歩み寄ってきた兵に肩を借り、足を引きずりながらシモンは建物の中へと歩を進める。よくあんな状態で車を運転してこれたものだ。
彼は眉をひそめたままぽかんと突っ立つ私を振り返り、顎で建物の中を示す。
「こっちだ。来な」
私は慌てて荷台から固定してあったキャリーバックを引きずり下ろすと、そのあとを追った。
被られているヘルメットが、その衝撃で斜めになる。
――私はまだまだ、彼らのようにはなれそうもない。
通された建物の中は、ひんやりとしていて肌寒いほどだった。
時期も考え、一応二・三枚の中着を着込んできてはいたが、それでもまだ寒気を感じるほどそこは寒々としていた。
たぶん、気候のせいばかりじゃないのだろう。
珍しそうに周りを見回す私に、シモンはそこらの瓦礫を指差し、ここで暫く待つように言う。
「たぶんあいつは今の時間ちょうど境界に居るんじゃないかな。何事もなければ、二時ごろには交代で戻ってくるよ」
私は時計に目を落とす。12時5分前。
私が時計から目を戻す頃には、私の目の前からシモンも、他の兵も姿を消していた。
私は、再び独りぼっちになった。
その街は、とても静かだった。
音らしい音といえば、風でカタカタと鳴る窓枠、ビュウという風音、はためく旗の音くらいか。
時折小さな話し声と、恐らく銃のこすれる音なのだろう、カチャリという金属音が通路から聞こえてくる。
恐らく――これは平和の静けさではない。張り詰めた緊張のもつ静けさだった。
私は持ってきたキャリーバックを両手で抱え、それに額をこすりつける。
果たして、私のしようとしていることは、私を連れてきてくれた彼ら――馬車引きやシモン、アルチデの命をあえて危険に晒してまで遂行する価値のあることなのだろうか?
私は、私の好奇心を満足させるためだけに動いていないか?
彼らの命がけの仕事に、私のしようとしている仕事は見合うのか?・・・
今更ながらに、私は私――そして馬車引き、シモンを死なせてしまわなくてよかったと、心の底から感じ入る。
ここでは、人の命が軽い。
村で狙撃されたように、人が片手を上げるのと同じくらい、その命が軽い。
私の知っている”命”は、もっと重いものだ――重いものだと、今まで当たり前のように信じていた。
だが、それはここでは何の意味ももたなかった。
サインひとつで、全てが覆ってしまう世界だった。
彼ら――馬車引きやシモン、アルチデは、私の常識を超えた常識、そして次元の違う理屈で、動いているように私の眼鏡には映る。
その理由や原動力、――そして”恐怖”は、一体何処に存在するのか。
私には到底図り知ることが出来なさそうだ。
もしこのままあと1年でも2年でも戦場に居れば、私の理屈も彼らと同じように”次元の違うもの”に化けてしまうのだろうか。
それを想像して、私は言いようのない恐怖と孤独、
――そして同時に、哀しみを感じた。
一体、平和とはなにか。
戦いとは何のために行うものなのか。
彼らの命がけの信念に比べれば、私の信念など風が吹けば飛ぶほど軽いものなのだろう。
――何故なら、それに見合うほど”重い”命など、私は持ち合わせていないのだから。
[2005年11月25日 午前11時56分]
その日、私は朝から書類の整理に追われていた。
参謀部や指令本部から送られてくる、予算や編成、錬成、方針、医療、兵器――これらの決定を迫る書類が次から次へと、山のように運ばれてくる。
部隊の再編、そして縮小。
今年も減らされる予算に、私は痛む頭を抱える。
今のウスティオには、もはや傭兵部隊は必要とされていなかった。
実際、今も残っている第6航空師団の予算は年々削られ、縮小を迫られ、人員は抜け、もはや「師団」とは呼べない編成に成り下がっている。
その代わり、国家としては正規軍の充填が進み、近頃はやっとまともな質の軍隊に復旧されつつあった。
これに伴い、当時第6航空師団で生き残ったパイロットの一部は、仮想敵国であるベルカの動きを最もよく知っている者として、アグレッサー部隊という名で正規軍に移動となる。だが、他の多くの者は縮小と共に解雇され、他の戦場を求めて、散っていったというのが実情だ。
もはや、第6航空師団の駐屯するヴァレー空軍基地は、名前だけの田舎基地――ベルカ戦争前の本来の姿に戻りつつあった。
私はそろそろ、この田舎基地司令官として一生を全うする想像が、現実味を帯びてきたんじゃないかという気が――してきている。
私は目の痛む書類を脇に避け、執務室の椅子にもたれかかり、大きく息を吐いた。
・・・昼にしよう。
そんな時分だった。
誰かが執務室のドアを二度、ノックする。
私はもたれかかっていた背筋を伸ばし、姿勢を整える。
「オルトン・フィッシャー軍曹であります。バリー・ラッシュ販促員をお連れしました。」
(バリー?)
私はその名に反応するが、なるべく声には出さずに入室を促す。
「ご苦労、入れ」
案内され、入ってきたのは第6航空師団贔屓の民間軍事会社の販売促進員、バリーラッシュだった。
予算が得られず、需要もないためこの師団を見限ったのか、暫く姿を見ないと思っていた男が、また唐突にやってきたものだ。
入ってきた中年の男の後ろで、オルトン軍曹が敬礼をして、下がっていく。
入ってきたO脚の男は、勧めもしないのに勝手に来客用の椅子に座ると、大きく息を吐いた。
ため息をつきたいのはこちらだ。
「随分久しぶりだな、バリー販促員。もうとっくに見限ったのかと思っていたよ」
私は一度は退けた書類の束をまた目の前に戻すと、黙々と整理を始める。
「平時の軍隊相手に商売したって、何も美味しいものはねぇからな」
そう言って彼はポケットから煙草を取り出す。
私は目ざとくそれを見つけ、先制で釘を刺す。
「ここは禁煙だ」
「・・・」
バリーはつまらなそうにその箱をまたポケットに戻した。
「しかし司令官大佐とは、お前様も随分昇進したじゃないかね、おめでとう。」
「お蔭様で、この地の墓に名前を刻むことになりそうだよ。」
「鬼に触れちまったんだ、これくらいのタタリでぐちぐち言うない」
私はその言葉にピクリと視線を上げる。
「・・・あの男のことか」
私の頭の中で、ようやく目の前の事が繋がる。
三ヶ月ほど前に、OBC報道関係者から妙なコンタクトがあった。
最初は、一本の電話だった。
要求は、単刀直入だった。
『10年前のベルカ戦争――あのときに貴師団に所属していた、鬼神と呼ばれる人物について尋ねたい』
私はそのあまりのストレートさに度肝を抜かれたのを覚えている。
彼および彼の所属する小隊に関する記録は、公式記録からは綺麗に消されてしまったはずだ。どこでどうやってその情報を仕入れてきたのか。
私はその熱意に舌を巻きこそするが、”公式”の態度で私は彼を門前払いした。
”そんな人物はいない。”
そう、いない。彼は、いなかったことになってしまった。
私はようやくペンをデスクに置き、立ち上がる。
「――あの男が生きてるんだな?」
バリー販促員は、やっとこちらに顔を向けてニヤリと笑った。
「ただ墓に名前を刻むだけじゃつまるまい?」
[2005年11月25日 午後2時08分]
あれから二時間ほど待った頃だろうか。
ようやく私の腰を下ろした瓦礫の一角に、一人の兵士がやってきた。
「立ちな。アンタのお待ちかねのが戻ってきた」
私は口を結び、眼鏡の角度を直すと、静かに立ち上がった。
とうとう、この時が来たのだ。
私は案内の兵士からやや遅れて歩を進める。兵士は銃剣を両手に構え、それとなくこちらを警戒しながら、私をその建物に連れて行ってくれた。
「来たぜ」
入り口で声をかけ、私に中に入るように言う。
そこは、普通の民家だった。
戦いの傷痕がそこかしこに刻まれており、中はボロボロだったが、元は人が住んでいたことをうかがわせる内装だった。
階段を上がり、二階に上がってみる。部屋はひとつしかなかった。
脚を踏み入れたその部屋は、午後の柔らかい光に満たされており、ただ何もなく、広かった。
壁には花畑を映したポスターが貼ってあった。
その隣には何処へ続いているのか、光の届かない大穴が空いている。
窓は壊されたのか壊したのか、全てのガラスと窓枠がだらしなく垂れ下がっていた。
――そんな部屋の中央で、その人物は小銃を片手に、立って私を待っていた。
”片羽の妖精” ラリー・フォルク。
入ってきた私を頭からつま先まで見やり、彼は片頬を持ち上げ、心もち吹きだすように笑う。
「アンタか。こんな辺境の一兵士に、わざわざ大陸をまたいでまで取材したいとかいう変わり者は。・・・・・確かに、ブンヤっぽいな」
後半は確認というよりは、”私の頭に被っている”ヘルメットを見てのコメントなのだろう。
私は少し恥ずかしくなって、ヘルメットを脱いだ。
「・・・ブレット・トンプソンです。初めまして、――”片羽の妖精”」
その名を聞いてか、彼は笑顔の質を苦笑から失笑に変える。
そして差し出しされた私の手を、ぎゅっと握り返す。
「初めまして、トンプソン」
「・・・」
そんな彼の黒い瞳は、私が今まで見たこともないような、不思議な光を帯びていた。
そしてそれは、それまで取材用として頭の中で纏めていた私の台詞を、すべてまっさらにしてしまう力を持っていた。
ぽかんと突っ立ったままの私を見て、彼がおどけたように肩をすくめる。
「どうした?取材に来たんだろう?」
「・・・・・・。」
私は言葉も出せず、ただ二本の脚でそこに立っていた。
――正直、プロ失格だった。
しばらくしてようやく零れおちたその言葉は、会う前に頭の中で描いた、どの言葉でもない言葉だった。
「・・・ここは、違う世界なんだな。」
その言葉がきっかけになったのか、私は何故か唐突に笑い出したい衝動に駆られる。
私の頭の中で、何かの箍が外れた。
私は肩を震わすほど笑い、今まで大事に抱きかかえてきたキャリーバックに腰を下ろす。
聞きたいことは、一瞬にして決まっていた。
私は訝しげな”片羽の妖精”の顔を真っ直ぐに見上げて、言う。
「あなたは、何のために戦っているんです?」
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