あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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ACEたちの欠片に一文
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機体操作・小ネタ集に
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2008/07/11-------
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人物をラクガキするに
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「やあ、ハロルド少佐!久しぶりじゃないか。」
私―――ハロルド・サヴァツキーは作戦終了後帰投したばかりのヴァレー空軍基地の廊下で、予期せぬ親しい呼びかけを受けたことに驚き、呼び掛けた人物の顔を反射的に見やった。
その人物はウスティオ司令本部に所属する友人―――同僚であった。
私―――ハロルド・サヴァツキーは作戦終了後帰投したばかりのヴァレー空軍基地の廊下で、予期せぬ親しい呼びかけを受けたことに驚き、呼び掛けた人物の顔を反射的に見やった。
その人物はウスティオ司令本部に所属する友人―――同僚であった。
「本当に久しぶりだな。調子はどうだい。君もエリートだったというのに、傭兵どもの世話とは大変な役回りになったな。同情するよ」
まくし立てるように話しかける彼に、私は苦笑しながらも答える。
「君も似たようなものじゃないか。大変そうだな」
彼は、ウスティオ司令本部に配属されているアカデミー時代からの私の友人だった。
共に学び、今は別々の場所―――私は作戦中ではガルム隊など傭兵部隊の指揮を務める”イーグルアイ”の一席、彼は司令内容を各部隊に伝達する作戦司令本部の一席―――で、それぞれの役割をこなしていた。
「まあ、まだ俺はまだ本部だからな。野良で放し飼いの野犬共の手綱を引くのとはわけが違う」
おどけたように肩をすくめて見せる友人の言葉に、私は苦笑するしかなかった。
「どうだい?AWACSの乗り心地は」
「特上さ。憧れていただけあったよ。」
「それはよかった。上も随分思い切っていたからな。俺も一度くらい乗ってみたいよ。」
「代わるかい?―――といいたいところだが、ご遠慮こうむる。あの席がなかなか気に入ってるんでね。」
「ほう?荒々しい傭兵どもの相手をしているわりには―――なにやら顔色がいいじゃないか」
「悪い気はしていない」
すると彼は明らかに意外そうな顔をした。
そして、さらに踏み入った質問をしてくる。
「聞くところによると、ガルム隊とかいうのがなかなか使えるらしいじゃないか。―――どんなヤツらなんだい?」
私は少し首をひねって、考え込んだ。
「噂では、問題児コンビだとか。」
「残念ながらその通りだ」
私はまたしても苦笑する。
「一人は独断行動の多い元ベルカの凄腕パイロット、一人はどっから流れてきたかもわからない、フザけた名前のマイペース野郎だって?―――・・・上もよくもこんな奴ら通して隊なんか作る気になったな」
自分で言っておきながら、友人は心底あきれた表情で再び肩をすくめた。
「ていのいい使い捨ての駒のつもりだったのかも知れんな。―――あの時分ではとても人を選んでいるような余裕はなかったからな」
「ここだけの話」そういって、声のトーンを随分落とす。「上もキナ臭さを感じてはいたらしいな。怪しいヤツら同士を組ませたら、お互いの牽制になるだろう―――くらいの安直な発想だったらしいぜ。まぁ、こんな時分だからなりふり構ってられなかったんだろうな。」
私もつられるようにして肩をすくめた。
だからもともと捨て駒のつもりで、ガルム隊を囮にして連合軍の海上部隊を上陸させるチョーカーワン作戦を決行した。彼らが墜ちたとしても、軍にとっては痛くもかゆくもないからである。
連合軍がウスティオの力となり、同時に胡散臭い傭兵をここらで始末することができるとなれば、まさに一石二鳥ではないか。
作戦を告げられた時点で、私にもその作戦の意図はピンと来ていた。
彼らがそれに感づいていたかどうかはわからない。
「・・・だが、結果的に彼らは生き残った。」
「・・・やけに肩入れしてるじゃないか。」
私は一瞬言葉に詰まり、自ら肩入れしているとしか思えない感情を胸のうちに認め、大きく息を吐いた。
「傭兵を認めたくはない。だが、事実、彼らの活躍で首都は開放され、脅威は押し返され始めている。」
その言葉に、友人は気まずそうに目を伏せながらも同意する。
「たしかに。―――俺の故郷も、やっと返ってきたよ。」
「初めはどっから来たかもわからん、烏どもにウスティオの空を飛ばせるなんて―――と思っていたものだがね。」
「この上無事戦争が終わった暁には、上手く烏どもを蹴散らせれるといいんだがな。」
その言葉に力を得たように、友人が眉間にしわを刻んで吐き捨てる。
「俺はイヤだぜ、あんな奴らにいつまでも故郷の空をうろちょろされるのは。」
私は何度目かになる苦笑いを顔に貼り付けたまま、同僚の顔を見やった。
彼も現場にいれば、彼らの凄さを肌で感じるだろう。
彼らはただの金稼ぎ集団とは少し違う。
我々正規兵とも違う。
もっと違う、とても深い理由が、彼らを速く飛ばせている―――。
私にはその理由を推し量れる余地など到底なかったが、それでも生きてきた道の違いは、作戦を重ねるごとにひしひしと肌に沁みこんで来た。
―――意外に、自分が思っているよりも、あの大空の中心が気に入っているのかもしれない。
何処から来たのかもわからない、胡散臭い傭兵ども―――
彼らを、まだもう少し、見ていたかった。
そうさせる力強さが、彼らにはあった。
「・・・意外に私も彼らに感化されてきているのかもしれないな。」
私は照れ隠しも含めて帽子を被りなおしながら、友人に背を向けた。
同じ頃、傭兵である俺たちはちょうど定例ミーティングを終了させ、各自備え付けの食堂で配給の夕食を済ませているところだった。
食堂は、いつもよりぐっと落ち着いていた。
当然だろう。あれだけの仲間が落とされたのだから。
食事の席で戦果を自慢するものもいない。作戦の酷さを愚痴るやつも、もういない。
ミーティングの簡易パイプ椅子にも、随分空きがあった。
度重なる出撃―――特に、今回のような不測の事態による損失は、目に見える戦力の欠損を生み出していた。
基地司令官は近いうちに戦力を補充する、期待して待ちたまえなどと歯の浮くようなうわ言をのたまっていたが、正直、到底期待できそうにもない。
ようやく押し返してきたと思った戦況。士気も高まってきている。
だがベルカは、それに気味の悪い新兵器を持って対抗した。
―――死への恐怖。
その薄気味悪さ、音もなくやってきた憎悪という名の敵意に、誰もが背筋を凍らせて「死」を意識した。
―――ベルカは、追い詰められれば追い詰められるほど、殺せば殺すほど、それ以上の憎しみと、その根底に流れる薄気味悪さをむき出しにして立ち向かってくるような、そんな気すらしてくる。
とても、食事の味を楽しんで食べる気分には、誰もがなれなかった。なれるはずがななかった。
「俺の整備した機体が帰ってこなかった。」
ぽつりと、隣の席から呟きが聞こえる。
「担当変更は3度目だ。」吸い寄せられるように流した俺の視線にも気付かずに、その整備兵は続ける。「一機目が大空で穴だらけになって帰ってこず―――二機目はミサイルをありったけ叩き込まれてパイロットもろとも木っ端微塵、三機目はなんだかわからん兵器であとかたもなく消し飛びました―――・・・・とさ。」
その男は、見ているこちらが眉をひそめたくなるような笑顔でまくし立てるように数え上げると、手にしたフォークと一緒に貼り付けていた笑顔もぽろりと落とした。
「・・・パイロットの顔すら覚えるヒマなんぞなかったね。」
そんな静かな食堂だからだろうか、いつもはいつ来たかのかも目に留まらないサイファーが、配給の盆を持って人の手薄な隅の席に座るのを、偶然見つけることができた。
俺はすかさず自分の盆を持って傭兵仲間の集団から抜け出し、席を移動する。
「よう、相棒」
滅多にない突然の呼びかけに驚いたのか、考え事をしていたのか、サイファーの手にしていたフォークが耳障りな音をたててトレイのヘリに突き刺さった。
「いつも一人で食ってるのか?」
サイファーはその問いには答えず、目を伏せると、再び黙々とフォークを動かし始めた。
答えが返ってくることを期待していなかった俺も、残っていた自分のメシをせっせと平らげる。
―――サイファーは意外に早食いだった。
俺が食べ終わる頃には、満タンだったヤツの食器の中身は綺麗にカラになっていた。
俺はトレイを片付けがてら、相棒の肩を叩く。
「よう相棒、たまには付き合えよ」
今度は逃れられないように、相手の瞳をぐっと睨めつけながら。
「この田舎基地は案外快適だったが、最寄の酒場が3000M下にあるっていうのが唯一の欠点だな。―――ほらよ」
俺たちは娯楽室―――と称した、木のテーブルと、椅子やソファーががいくつか並んでいるだけの休憩室の一角のテーブルを陣取って、座りあっていた。
サイファーは今にもケツが椅子からズレ落ちそうなほど居心地が悪そうにしていた。
そして、俺が音を立ててテーブルの真ん中においた原酒ばりばりのウイスキーに、ますます顔を強張らせているようだったが、―――関係ない。
「今夜は哨戒当番じゃないだろ?たまには付き合えよ」
ここまできてようやく逃げ切れないと悟ったのか、サイファーは大きく息を吐くと、ポケットからなにやら取り出しにかかった。
そうして取り出した木製の四角いケースを掲げて、俺に目で問いかける。シガーだった。
「どうぞ」
俺は俺で、そこいらから勝手に失敬してきたショットグラスにウィスキーを注ぎ、互いの前に置いた。
サイファーは、先日吸いかけてやめたシガーに息を通すと、ガスライターで再び静かにあぶり、火をつけた。すぐに独特の香りが広まり、紫色の煙が天井に昇っていった。
サイファーが表情を変えないままそれをくゆらすと、葉巻の先がほんのり橙に染まった。
「洒落たものが好きなんだな」
サイファーは、答えの代わりにふうっと煙を吐き出して見せた。
俺も負けずに自前のウィスキーをぐいっと一気に飲み干して、相手の顔に視線を据える。
「よう相棒、お前どうして傭兵やってんだ?」
相手が喋れないからといって、容赦する気分になれない。今夜はとことん付き合ってもらうぜ、相棒。
サイファーはそんな俺の問いに眉間に軽くしわを刻んで答えを考えているように見えた。
三回ほど煙をふかしたころになって、ようやくアクションを起こす。
―――サイファーが、席を立ち上がった。
「・・・おい、また逃げるのか」
むっとした俺の顔を見てか、サイファーは進めようとしていた足を止めた。
シガーを唇から離し、首を軽く左右に振る。
そして、ついてこいというように人差し指を二度、軽く動かした。
―――相変わらずマイペースなヤツめ。
再び歩き出そうとしていた背中が、俺の突き刺さるような視線を感じてか、再び止まった。
そして何を思ったのかくるりと振り向くと、自分の席の前に置いてあったショットグラスのウィスキーを一気に流し込んだ。
少し垂れた口の端を拭って歩き出しながら、サイファーは再びついてくるように手を動かす。
・・・相変わらずの奇人め。
基地の廊下は薄暗い。
どこでも暖房を効かせているわけではないため、廊下は吐く息が白く濁るほどには寒かった。
薄暗い明りの下、前を行くサイファーの足音だけが単調に響く。
俺は白い息を吹き散らしながら、改めて相棒の背中を見やった。
こうして歩いているのを見ていると、今更ながら、サイファーの体つきが案外がっちりとしていることに気づく。毎日の基礎トレを欠かさず行っているのだろう。
きっちりと履きこんだアーミーブーツが立てる足音は、どこまでも単調だった。
背は平均的な身長や、そして俺自身の身長よりも頭半分高いほど。
両拳を固めて、ただ淡々と重心を移動させる。軍に所属した者特有の歩き方。
こいつも、元軍人か。
俺はその背中に隠れてこっそり肩をすくめる。
元軍人が戦場を忘れられずに傭兵になるのは、どこの世界でも非常によくある話だ。
サイファーが歩むに任せてついてゆくと、やがてたどり着いたのは、傭兵のために用意された宿舎だった。
そしていくつも並ぶ赤茶けた扉のうちひとつ―――おそらく自分の部屋だろう―――の扉を無造作に開け、中へと入ってゆく。
ついていったものかどうか迷ったが、迷っている間に用事は済んだようだった。サイファーはすぐに部屋から出てきた。
そして俺に向かって一本のボトルを掲げてみせる。
ウォッカだった。
ここ一ヶ月ほど相棒として付き合っているが、こいつが酒を出してきたところを、俺は初めて見た。
「なんだ、ウィスキーは嫌いだったのか」
サイファーは苦笑しながら違うというように手の平を振ると、ウォッカに軽くキスをしてみせた。
俺はこいつがいいのさ。
「―――で、結局どこへいくんだ?」
俺は奴のマイペースぶりにいい加減呆れてきた。手にしたウィスキーとサイファーと見比べると、まあいいかと思い、口を付けてラッパ飲みをする。
元来酒に弱い方ではないが、特段強い方でもない。
だが今は飲まずにはやってられない気分だった。
そうして俺とサイファーがたどり着いた場所は、機体格納庫だった。
中は全ての明かりがついていたわけではないが、まだ機体の整備をする整備兵がちらほらと歩いていた。
そして、サイファーをみかけるとある者は笑顔で手を振り、ある者はニヤニヤと笑いながら右手でボトルを持って掲げる仕草をしてみせた。
どうやら整備兵の間ではサイファーは、俺や他の傭兵たちよりも近しい存在らしい。
「驚いたな。よう相棒、ここにはよく出入りしてるのか?」
サイファーはその問いに軽く頷くと愛機の前で足を止めた。
そして振り向き、真っ直ぐに俺を見て言う。
「俺の理由はこいつだ。お前は何故傭兵だ?片羽」
初めて聞くその声は、風が吹いているかのようにかすれていた。
そしてその口調には、俺も幼少をすごしたのだから間違いない、―――ベルカ独特の強い訛りがあった。
「相棒、お前―――喋れたのか」
驚く俺の顔を見て、サイファーは軽く肩をすくめ、ウォッカをぐいと煽った。
「無線には拾われないがね」
たしかに、機体が風を切る音、ターゲットが爆発する音、自機のエンジン音、無線のノイズ―――
あんな状況で囁きに耳を傾けるものなどいない。
「俺は口が軽くてね。軽すぎて本当の声は鳥にもってかれちまったのさ」
俺は驚きと衝撃でどう返したらいいのか、さっぱり見当がつかずに、結局肩をすくめてみせるだけに終わった。
こんなファンキーな奴だったとは、―――例えるならベッドに潜った彼女にツイてたときぐらいに、衝撃だ。
「意外か?―――まあ、そうかもな」
一人合点すると、サイファーは再びウォッカを煽った。
「片羽、お前こそ何故ウスティオに来た。戦争など世界中探せばいくらでもあるだろう。」
「・・・」
「お前は何のために戦う。お前にとって傭兵とは何だ?俺に聞くからには何かあるんだろう?」
俺は、俺から持ち出した話だというのに、理不尽な質問返しに、何故か試されているような気分にすらなった。
そして少し乾いた唇を再び湿らせ、答えを紡ぐ。
「俺にとって傭兵は、プライドだ、相棒。」
サイファーは黙ってそれを受け止めた。
「争いは世界中にある。だが、俺たち傭兵にはそれを止める力がある。人殺しの力だ。―――だが、世界中どこでも、公正に貸すことのできる力だ。褒められた技術じゃない。だが、誰もができる訳じゃない。俺たちにしかできない役割だ。―――俺は、争いのない世界を実現させたいんだ、相棒。」
「・・・」
今度は、サイファーの黙る番だった。
長い沈黙だった。だが、俺は俺の考えに信念とプライドを持っていた。
実際には大した間じゃなかったのだろう、サイファーは表情一つ変えずに、俺と真っ直ぐに目を合わせたままシガーの続きを吸った。
「大した理由だな、片羽。―――俺にはないプライドだ」
今度は、俺の番だった。
俺は地べたに腰を下ろし、ウイスキーを煽る。そしてひと呼吸ついてから、反撃の言葉をつむぐ。
「お前の理由はなんだ、相棒。さっきのじゃさっぱりわからん」
「・・・」
くちを真一文に結んだまま微動だにしない表情でシガーをもうひと吹きし、サイファーはやっと視線を動かした。
「こいつは、―――」
そういって自らの両翼が紺色にペイントされたイーグルをみやる。
「そうだな、友人でもあり、親友でもあり、相棒でもあり、理想でもあり、理由でもある。―――片羽、俺にはそんな大層な理由はないよ。―――ただ、一人の人間として、好きな場所があるだけさ」
「ウスティオか?」
「・・・」
サイファーの灰色の瞳は、ここではないどこか遠くを見ているようだった。
シガーの紫煙が誰に吸われることもなく、風に流れていった。
「―――国じゃない。」
サイファーは自ら相棒と称したその機体に手をおいて、語りかけるように呟く。
「誰でも忘れられない景色のひとつやふたつ、あるだろう。俺は、幼い頃ヘリから見た、あの青空が忘れられなかったよ、相棒」
その相棒は、いったい誰のことを指しているのか。
サイファーはかまわず続ける。
「こいつは争いがないと飛べない。俺の古い友人は、こいつ―――マッハを越えて飛ぶ鉄の鳥に魅了されてた。傭兵になったのは、こいつらで飛ぶためだと豪語してるようなヤツだったよ。戦果は二の次、いつも借金王の座をキープしてた。」
かすれた声で一息ににそこまで話すと、再びシガーを一口、ふかす。
「争いがあればいいと思うのか」
俺の中で、自分と似ていると思っていた相棒の像は、まさに今目の前で語り崩されていた。
「逆さ。―――争いなんぞなくても、純粋に好きな奴が好きな空で、鉛の玉なんぞ積まなくても、コイツを飛ばせればいいと思う。―――ただ、たったそれだけの理由で俺はここに戻ってきた。俺にとってその場所が、ベルカのあの空だったというだけさ。」
「・・・」
何ともいえない後味―――胸の内側でちりちりとくすぶる感情が、サイファーへの信頼を右往左往させていた。
自分と同じだと思っていた。
理由はたしかにあった。
ひとそれぞれ異なっていて当然だとも思う。
だが、それは俺には理解することのできない理由だった。
祖国のためでも誰かのためでも世界のためでもない。自分の力を生かすためでも、そこしか居場所がないからというわけでもない。
俺の今まで見てきた人間の中で、コイツはもっとも俺に近い理想を持ち―――そしてもっとも不可解な理由を持つ男だった。
「・・・相棒、俺は理解できない。」
「そうか」
サイファーは、こともなげに相づちを打ち、シガーをふかす。
おそらくちまちまと吸い続けているのだろうそれは、もう親指の半分ほどの長さになっていた。
サイファーは吸うのを意図的にやめると、シガーの火が消えるのを待った。
「・・・正直、いつも迷っているよ。死んで惜しい命というほどでもない。殺すのには―――まだ、勇気がいるな。だが、―――生きていたいとは思うよ。」
サイファーのその表情は、迷っている者のそれと言うよりは、諦めた者のそれにみえた。
「―――わかった」
俺はウイスキーをもって、立ち上がる。
そして、これだけは言っておきたかったことを、胸の内にくすぶる感情にまかせて言い放つ。
「迷うのは勝手だが、今度今回のような腑抜けた飛び方をしやがったら―――」
俺の視線、灰色の瞳が、正面から真っ直ぐに向かい合う。
その時の俺には、絶対に譲れないプライドと、己の力に対する確たる自信があった。
「墜とす」
沈黙は一瞬だった。
だがこの一瞬で、俺とサイファーの目には見えない運命のレールが、この時たしかに切り替わった。
俺はサイファーの返事も待たず、くるりときびすを返した。
胸の内にくすぶる感情―――それは、今になって思えば、似ていると思ったものを理解できぬことへの苛立ち、そして、戦うための力、傭兵という役割へのプライドを純粋に信じているための怒りであったのだと、―――今は解る。
まくし立てるように話しかける彼に、私は苦笑しながらも答える。
「君も似たようなものじゃないか。大変そうだな」
彼は、ウスティオ司令本部に配属されているアカデミー時代からの私の友人だった。
共に学び、今は別々の場所―――私は作戦中ではガルム隊など傭兵部隊の指揮を務める”イーグルアイ”の一席、彼は司令内容を各部隊に伝達する作戦司令本部の一席―――で、それぞれの役割をこなしていた。
「まあ、まだ俺はまだ本部だからな。野良で放し飼いの野犬共の手綱を引くのとはわけが違う」
おどけたように肩をすくめて見せる友人の言葉に、私は苦笑するしかなかった。
「どうだい?AWACSの乗り心地は」
「特上さ。憧れていただけあったよ。」
「それはよかった。上も随分思い切っていたからな。俺も一度くらい乗ってみたいよ。」
「代わるかい?―――といいたいところだが、ご遠慮こうむる。あの席がなかなか気に入ってるんでね。」
「ほう?荒々しい傭兵どもの相手をしているわりには―――なにやら顔色がいいじゃないか」
「悪い気はしていない」
すると彼は明らかに意外そうな顔をした。
そして、さらに踏み入った質問をしてくる。
「聞くところによると、ガルム隊とかいうのがなかなか使えるらしいじゃないか。―――どんなヤツらなんだい?」
私は少し首をひねって、考え込んだ。
「噂では、問題児コンビだとか。」
「残念ながらその通りだ」
私はまたしても苦笑する。
「一人は独断行動の多い元ベルカの凄腕パイロット、一人はどっから流れてきたかもわからない、フザけた名前のマイペース野郎だって?―――・・・上もよくもこんな奴ら通して隊なんか作る気になったな」
自分で言っておきながら、友人は心底あきれた表情で再び肩をすくめた。
「ていのいい使い捨ての駒のつもりだったのかも知れんな。―――あの時分ではとても人を選んでいるような余裕はなかったからな」
「ここだけの話」そういって、声のトーンを随分落とす。「上もキナ臭さを感じてはいたらしいな。怪しいヤツら同士を組ませたら、お互いの牽制になるだろう―――くらいの安直な発想だったらしいぜ。まぁ、こんな時分だからなりふり構ってられなかったんだろうな。」
私もつられるようにして肩をすくめた。
だからもともと捨て駒のつもりで、ガルム隊を囮にして連合軍の海上部隊を上陸させるチョーカーワン作戦を決行した。彼らが墜ちたとしても、軍にとっては痛くもかゆくもないからである。
連合軍がウスティオの力となり、同時に胡散臭い傭兵をここらで始末することができるとなれば、まさに一石二鳥ではないか。
作戦を告げられた時点で、私にもその作戦の意図はピンと来ていた。
彼らがそれに感づいていたかどうかはわからない。
「・・・だが、結果的に彼らは生き残った。」
「・・・やけに肩入れしてるじゃないか。」
私は一瞬言葉に詰まり、自ら肩入れしているとしか思えない感情を胸のうちに認め、大きく息を吐いた。
「傭兵を認めたくはない。だが、事実、彼らの活躍で首都は開放され、脅威は押し返され始めている。」
その言葉に、友人は気まずそうに目を伏せながらも同意する。
「たしかに。―――俺の故郷も、やっと返ってきたよ。」
「初めはどっから来たかもわからん、烏どもにウスティオの空を飛ばせるなんて―――と思っていたものだがね。」
「この上無事戦争が終わった暁には、上手く烏どもを蹴散らせれるといいんだがな。」
その言葉に力を得たように、友人が眉間にしわを刻んで吐き捨てる。
「俺はイヤだぜ、あんな奴らにいつまでも故郷の空をうろちょろされるのは。」
私は何度目かになる苦笑いを顔に貼り付けたまま、同僚の顔を見やった。
彼も現場にいれば、彼らの凄さを肌で感じるだろう。
彼らはただの金稼ぎ集団とは少し違う。
我々正規兵とも違う。
もっと違う、とても深い理由が、彼らを速く飛ばせている―――。
私にはその理由を推し量れる余地など到底なかったが、それでも生きてきた道の違いは、作戦を重ねるごとにひしひしと肌に沁みこんで来た。
―――意外に、自分が思っているよりも、あの大空の中心が気に入っているのかもしれない。
何処から来たのかもわからない、胡散臭い傭兵ども―――
彼らを、まだもう少し、見ていたかった。
そうさせる力強さが、彼らにはあった。
「・・・意外に私も彼らに感化されてきているのかもしれないな。」
私は照れ隠しも含めて帽子を被りなおしながら、友人に背を向けた。
同じ頃、傭兵である俺たちはちょうど定例ミーティングを終了させ、各自備え付けの食堂で配給の夕食を済ませているところだった。
食堂は、いつもよりぐっと落ち着いていた。
当然だろう。あれだけの仲間が落とされたのだから。
食事の席で戦果を自慢するものもいない。作戦の酷さを愚痴るやつも、もういない。
ミーティングの簡易パイプ椅子にも、随分空きがあった。
度重なる出撃―――特に、今回のような不測の事態による損失は、目に見える戦力の欠損を生み出していた。
基地司令官は近いうちに戦力を補充する、期待して待ちたまえなどと歯の浮くようなうわ言をのたまっていたが、正直、到底期待できそうにもない。
ようやく押し返してきたと思った戦況。士気も高まってきている。
だがベルカは、それに気味の悪い新兵器を持って対抗した。
―――死への恐怖。
その薄気味悪さ、音もなくやってきた憎悪という名の敵意に、誰もが背筋を凍らせて「死」を意識した。
―――ベルカは、追い詰められれば追い詰められるほど、殺せば殺すほど、それ以上の憎しみと、その根底に流れる薄気味悪さをむき出しにして立ち向かってくるような、そんな気すらしてくる。
とても、食事の味を楽しんで食べる気分には、誰もがなれなかった。なれるはずがななかった。
「俺の整備した機体が帰ってこなかった。」
ぽつりと、隣の席から呟きが聞こえる。
「担当変更は3度目だ。」吸い寄せられるように流した俺の視線にも気付かずに、その整備兵は続ける。「一機目が大空で穴だらけになって帰ってこず―――二機目はミサイルをありったけ叩き込まれてパイロットもろとも木っ端微塵、三機目はなんだかわからん兵器であとかたもなく消し飛びました―――・・・・とさ。」
その男は、見ているこちらが眉をひそめたくなるような笑顔でまくし立てるように数え上げると、手にしたフォークと一緒に貼り付けていた笑顔もぽろりと落とした。
「・・・パイロットの顔すら覚えるヒマなんぞなかったね。」
そんな静かな食堂だからだろうか、いつもはいつ来たかのかも目に留まらないサイファーが、配給の盆を持って人の手薄な隅の席に座るのを、偶然見つけることができた。
俺はすかさず自分の盆を持って傭兵仲間の集団から抜け出し、席を移動する。
「よう、相棒」
滅多にない突然の呼びかけに驚いたのか、考え事をしていたのか、サイファーの手にしていたフォークが耳障りな音をたててトレイのヘリに突き刺さった。
「いつも一人で食ってるのか?」
サイファーはその問いには答えず、目を伏せると、再び黙々とフォークを動かし始めた。
答えが返ってくることを期待していなかった俺も、残っていた自分のメシをせっせと平らげる。
―――サイファーは意外に早食いだった。
俺が食べ終わる頃には、満タンだったヤツの食器の中身は綺麗にカラになっていた。
俺はトレイを片付けがてら、相棒の肩を叩く。
「よう相棒、たまには付き合えよ」
今度は逃れられないように、相手の瞳をぐっと睨めつけながら。
「この田舎基地は案外快適だったが、最寄の酒場が3000M下にあるっていうのが唯一の欠点だな。―――ほらよ」
俺たちは娯楽室―――と称した、木のテーブルと、椅子やソファーががいくつか並んでいるだけの休憩室の一角のテーブルを陣取って、座りあっていた。
サイファーは今にもケツが椅子からズレ落ちそうなほど居心地が悪そうにしていた。
そして、俺が音を立ててテーブルの真ん中においた原酒ばりばりのウイスキーに、ますます顔を強張らせているようだったが、―――関係ない。
「今夜は哨戒当番じゃないだろ?たまには付き合えよ」
ここまできてようやく逃げ切れないと悟ったのか、サイファーは大きく息を吐くと、ポケットからなにやら取り出しにかかった。
そうして取り出した木製の四角いケースを掲げて、俺に目で問いかける。シガーだった。
「どうぞ」
俺は俺で、そこいらから勝手に失敬してきたショットグラスにウィスキーを注ぎ、互いの前に置いた。
サイファーは、先日吸いかけてやめたシガーに息を通すと、ガスライターで再び静かにあぶり、火をつけた。すぐに独特の香りが広まり、紫色の煙が天井に昇っていった。
サイファーが表情を変えないままそれをくゆらすと、葉巻の先がほんのり橙に染まった。
「洒落たものが好きなんだな」
サイファーは、答えの代わりにふうっと煙を吐き出して見せた。
俺も負けずに自前のウィスキーをぐいっと一気に飲み干して、相手の顔に視線を据える。
「よう相棒、お前どうして傭兵やってんだ?」
相手が喋れないからといって、容赦する気分になれない。今夜はとことん付き合ってもらうぜ、相棒。
サイファーはそんな俺の問いに眉間に軽くしわを刻んで答えを考えているように見えた。
三回ほど煙をふかしたころになって、ようやくアクションを起こす。
―――サイファーが、席を立ち上がった。
「・・・おい、また逃げるのか」
むっとした俺の顔を見てか、サイファーは進めようとしていた足を止めた。
シガーを唇から離し、首を軽く左右に振る。
そして、ついてこいというように人差し指を二度、軽く動かした。
―――相変わらずマイペースなヤツめ。
再び歩き出そうとしていた背中が、俺の突き刺さるような視線を感じてか、再び止まった。
そして何を思ったのかくるりと振り向くと、自分の席の前に置いてあったショットグラスのウィスキーを一気に流し込んだ。
少し垂れた口の端を拭って歩き出しながら、サイファーは再びついてくるように手を動かす。
・・・相変わらずの奇人め。
基地の廊下は薄暗い。
どこでも暖房を効かせているわけではないため、廊下は吐く息が白く濁るほどには寒かった。
薄暗い明りの下、前を行くサイファーの足音だけが単調に響く。
俺は白い息を吹き散らしながら、改めて相棒の背中を見やった。
こうして歩いているのを見ていると、今更ながら、サイファーの体つきが案外がっちりとしていることに気づく。毎日の基礎トレを欠かさず行っているのだろう。
きっちりと履きこんだアーミーブーツが立てる足音は、どこまでも単調だった。
背は平均的な身長や、そして俺自身の身長よりも頭半分高いほど。
両拳を固めて、ただ淡々と重心を移動させる。軍に所属した者特有の歩き方。
こいつも、元軍人か。
俺はその背中に隠れてこっそり肩をすくめる。
元軍人が戦場を忘れられずに傭兵になるのは、どこの世界でも非常によくある話だ。
サイファーが歩むに任せてついてゆくと、やがてたどり着いたのは、傭兵のために用意された宿舎だった。
そしていくつも並ぶ赤茶けた扉のうちひとつ―――おそらく自分の部屋だろう―――の扉を無造作に開け、中へと入ってゆく。
ついていったものかどうか迷ったが、迷っている間に用事は済んだようだった。サイファーはすぐに部屋から出てきた。
そして俺に向かって一本のボトルを掲げてみせる。
ウォッカだった。
ここ一ヶ月ほど相棒として付き合っているが、こいつが酒を出してきたところを、俺は初めて見た。
「なんだ、ウィスキーは嫌いだったのか」
サイファーは苦笑しながら違うというように手の平を振ると、ウォッカに軽くキスをしてみせた。
俺はこいつがいいのさ。
「―――で、結局どこへいくんだ?」
俺は奴のマイペースぶりにいい加減呆れてきた。手にしたウィスキーとサイファーと見比べると、まあいいかと思い、口を付けてラッパ飲みをする。
元来酒に弱い方ではないが、特段強い方でもない。
だが今は飲まずにはやってられない気分だった。
そうして俺とサイファーがたどり着いた場所は、機体格納庫だった。
中は全ての明かりがついていたわけではないが、まだ機体の整備をする整備兵がちらほらと歩いていた。
そして、サイファーをみかけるとある者は笑顔で手を振り、ある者はニヤニヤと笑いながら右手でボトルを持って掲げる仕草をしてみせた。
どうやら整備兵の間ではサイファーは、俺や他の傭兵たちよりも近しい存在らしい。
「驚いたな。よう相棒、ここにはよく出入りしてるのか?」
サイファーはその問いに軽く頷くと愛機の前で足を止めた。
そして振り向き、真っ直ぐに俺を見て言う。
「俺の理由はこいつだ。お前は何故傭兵だ?片羽」
初めて聞くその声は、風が吹いているかのようにかすれていた。
そしてその口調には、俺も幼少をすごしたのだから間違いない、―――ベルカ独特の強い訛りがあった。
「相棒、お前―――喋れたのか」
驚く俺の顔を見て、サイファーは軽く肩をすくめ、ウォッカをぐいと煽った。
「無線には拾われないがね」
たしかに、機体が風を切る音、ターゲットが爆発する音、自機のエンジン音、無線のノイズ―――
あんな状況で囁きに耳を傾けるものなどいない。
「俺は口が軽くてね。軽すぎて本当の声は鳥にもってかれちまったのさ」
俺は驚きと衝撃でどう返したらいいのか、さっぱり見当がつかずに、結局肩をすくめてみせるだけに終わった。
こんなファンキーな奴だったとは、―――例えるならベッドに潜った彼女にツイてたときぐらいに、衝撃だ。
「意外か?―――まあ、そうかもな」
一人合点すると、サイファーは再びウォッカを煽った。
「片羽、お前こそ何故ウスティオに来た。戦争など世界中探せばいくらでもあるだろう。」
「・・・」
「お前は何のために戦う。お前にとって傭兵とは何だ?俺に聞くからには何かあるんだろう?」
俺は、俺から持ち出した話だというのに、理不尽な質問返しに、何故か試されているような気分にすらなった。
そして少し乾いた唇を再び湿らせ、答えを紡ぐ。
「俺にとって傭兵は、プライドだ、相棒。」
サイファーは黙ってそれを受け止めた。
「争いは世界中にある。だが、俺たち傭兵にはそれを止める力がある。人殺しの力だ。―――だが、世界中どこでも、公正に貸すことのできる力だ。褒められた技術じゃない。だが、誰もができる訳じゃない。俺たちにしかできない役割だ。―――俺は、争いのない世界を実現させたいんだ、相棒。」
「・・・」
今度は、サイファーの黙る番だった。
長い沈黙だった。だが、俺は俺の考えに信念とプライドを持っていた。
実際には大した間じゃなかったのだろう、サイファーは表情一つ変えずに、俺と真っ直ぐに目を合わせたままシガーの続きを吸った。
「大した理由だな、片羽。―――俺にはないプライドだ」
今度は、俺の番だった。
俺は地べたに腰を下ろし、ウイスキーを煽る。そしてひと呼吸ついてから、反撃の言葉をつむぐ。
「お前の理由はなんだ、相棒。さっきのじゃさっぱりわからん」
「・・・」
くちを真一文に結んだまま微動だにしない表情でシガーをもうひと吹きし、サイファーはやっと視線を動かした。
「こいつは、―――」
そういって自らの両翼が紺色にペイントされたイーグルをみやる。
「そうだな、友人でもあり、親友でもあり、相棒でもあり、理想でもあり、理由でもある。―――片羽、俺にはそんな大層な理由はないよ。―――ただ、一人の人間として、好きな場所があるだけさ」
「ウスティオか?」
「・・・」
サイファーの灰色の瞳は、ここではないどこか遠くを見ているようだった。
シガーの紫煙が誰に吸われることもなく、風に流れていった。
「―――国じゃない。」
サイファーは自ら相棒と称したその機体に手をおいて、語りかけるように呟く。
「誰でも忘れられない景色のひとつやふたつ、あるだろう。俺は、幼い頃ヘリから見た、あの青空が忘れられなかったよ、相棒」
その相棒は、いったい誰のことを指しているのか。
サイファーはかまわず続ける。
「こいつは争いがないと飛べない。俺の古い友人は、こいつ―――マッハを越えて飛ぶ鉄の鳥に魅了されてた。傭兵になったのは、こいつらで飛ぶためだと豪語してるようなヤツだったよ。戦果は二の次、いつも借金王の座をキープしてた。」
かすれた声で一息ににそこまで話すと、再びシガーを一口、ふかす。
「争いがあればいいと思うのか」
俺の中で、自分と似ていると思っていた相棒の像は、まさに今目の前で語り崩されていた。
「逆さ。―――争いなんぞなくても、純粋に好きな奴が好きな空で、鉛の玉なんぞ積まなくても、コイツを飛ばせればいいと思う。―――ただ、たったそれだけの理由で俺はここに戻ってきた。俺にとってその場所が、ベルカのあの空だったというだけさ。」
「・・・」
何ともいえない後味―――胸の内側でちりちりとくすぶる感情が、サイファーへの信頼を右往左往させていた。
自分と同じだと思っていた。
理由はたしかにあった。
ひとそれぞれ異なっていて当然だとも思う。
だが、それは俺には理解することのできない理由だった。
祖国のためでも誰かのためでも世界のためでもない。自分の力を生かすためでも、そこしか居場所がないからというわけでもない。
俺の今まで見てきた人間の中で、コイツはもっとも俺に近い理想を持ち―――そしてもっとも不可解な理由を持つ男だった。
「・・・相棒、俺は理解できない。」
「そうか」
サイファーは、こともなげに相づちを打ち、シガーをふかす。
おそらくちまちまと吸い続けているのだろうそれは、もう親指の半分ほどの長さになっていた。
サイファーは吸うのを意図的にやめると、シガーの火が消えるのを待った。
「・・・正直、いつも迷っているよ。死んで惜しい命というほどでもない。殺すのには―――まだ、勇気がいるな。だが、―――生きていたいとは思うよ。」
サイファーのその表情は、迷っている者のそれと言うよりは、諦めた者のそれにみえた。
「―――わかった」
俺はウイスキーをもって、立ち上がる。
そして、これだけは言っておきたかったことを、胸の内にくすぶる感情にまかせて言い放つ。
「迷うのは勝手だが、今度今回のような腑抜けた飛び方をしやがったら―――」
俺の視線、灰色の瞳が、正面から真っ直ぐに向かい合う。
その時の俺には、絶対に譲れないプライドと、己の力に対する確たる自信があった。
「墜とす」
沈黙は一瞬だった。
だがこの一瞬で、俺とサイファーの目には見えない運命のレールが、この時たしかに切り替わった。
俺はサイファーの返事も待たず、くるりときびすを返した。
胸の内にくすぶる感情―――それは、今になって思えば、似ていると思ったものを理解できぬことへの苛立ち、そして、戦うための力、傭兵という役割へのプライドを純粋に信じているための怒りであったのだと、―――今は解る。
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