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あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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≪沈黙の片羽≫
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ベルカ戦争を駆け抜けた鬼神の姿を、登場人物の視点から振り返る

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エースコンバットの世界で
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REVEAL ONE
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幾度かの夕日が落ち、同じだけの朝日が昇った。

私たちが、再びユージア大陸横断の旅を始めた地に戻るまで、行きよりももう少しだけ時間がかかった。
道中で私はやはり同じように誓いのサインをばら撒き、様々な人間と他愛もない話をし、いろいろなものを見、口にした。
観光と言うほどのものではないが、シモンは寄り道にならない程度に様々なものをみせてくれ、向こうではできない体験もいくつかさせてくれた。
私が生まれて初めて難民と呼ばれる立場になった人たちに接したのも、そんな一部だ。
私はそれらを真剣に見聞きし、できるだけ多くのことを知るため、心から彼らに触れ合った。

そんな日々の中で、彼は少しだけ自分自身のことも話してくれた。
祖国に妹がおり、戦争のいざこざで二人で難民となって放浪したこと、だが国は美しいところであったこと、水の綺麗で豊かな国であったこと。
道中立ち寄った川のほとりで夕日を眺めながら、彼はぽつりとこんなことを呟いた。
「そこにどんな綺麗な自然があろうと、どんな人間が暮らしていようと、国を動かす奴らにそんなことは関係ない。どんな立場でどんな正義をかざそうと、やってることは皆同じになる。・・・皆同じだ」
その呟きは、今まで聞いた彼の言葉の中では少し異質だったように思う。
それを語る彼の後姿からは、血のように紅い夕日とは対照的に、黒い長い尾が伸びていた。





私が最初にユージアの地を踏んだ空軍基地に戻ってこれたのは、そんな道中の四日目、昼に近い時刻だったろうか。
私は長らく慣れ親しんだじゃじゃ馬から降り、久しぶりに吸い込む空気の匂いをかぐ。少し熱をはらんだ、乾燥した空気の匂い。
そんな私を、シモンは珍しく運転席から降りてじっと見やっていた。彼がこのように、私のことを見るともなしに視線を投げかけることは、よくあることだった。
私はくくりつけた荷物を自ら下ろし、礼を言って別れる為にシモンに向き直る。
長らく親しんだ彼に別れを告げるのは、少し物寂しいものがあった。
私はその顔を真っ直ぐに見上げ、言葉に出来ない思いを言葉にする。
「シモン、本当に長い間、案内をしてくれてありがとう。本当に助かったよ」
だが――
そんな私の思いとは裏腹に、彼がとった行動は、私に理解の出来ないものだった。
・・・あるいは、私の頭が理解することを拒んだのかもしれなかった。
迷うような一瞬の空白を挟んで二人の間に現れたそれは、無機質で無骨な黒い金属の塊。そう、それは私がこの数日で幾度となく目にした、人殺しのための道具――

銃だった。

彼は、自動拳銃を握る左手を、私と向き合ってただ無表情に突き出している。
「シモン・・・・?」
私は最初、何かの冗談かと思った。現実を目にして尚、頭が理解するとこを拒否している。
だが、拳銃は確かに彼の手に握られている。
私は突然の事態に茫然自失となりながら、辛うじて彼の顔を見上げる。
見上げたその空間に、光というものはなかった。
彼の瞳も無機質なら、向けられる銃口にも、感情というものがこもっていない。
ややおいて、何も込められていない空ろな空間から、いくつかの言葉がぽろりと零れ落ちる。
「あんたを消すよう言われたのは、アルチデだけじゃない。実は俺もなんだ」
私は驚いてその銃口から再び彼の顔に視線を跳ね上げる。
「別に驚くことじゃない。」彼は動作だけは表現豊かに肩をすくめて見せる。表情は、仮面の如く変わらない。「仲間だと思ってた奴が金で寝返るのは、よくあることさ」
アルチデ、そしてシモン。彼らともども、ピクシーにとっては仲間であり、私にとっても仲間であったはずだった。
――どの時点から?
そして、どの時点ではすでに仲間でなかった?
「・・・・・。」
だが、私は――私には目の前の光景がどうしても信じられなかった。
そんな私の困惑を見透かしたように、彼は言葉を紡ぐ。
「あんたピクシーに聞いてたよな。”何故戦っているのか”って」
「・・・」
「俺は、俺には、まだ戦う理由なんてない。――もうって言った方が正しいな」
淡々と言葉を紡ぐ彼の顔には、やはりなんの感情もこめられていなかった。
そしてその顔のまま、彼は少なくとも私にとって衝撃的なことを告げる。
「妹はテロリストに殺された。だからテロリストは嫌いだ。・・・奴らには節操ってもんがない」
私はハッとした。
テロリスト。それは、”片羽”のことではないだろうか?

もし、彼が先ほど語ったとおり、私と”片羽”を殺すように請け負ったのだとしたら。彼は、テロリストである”片羽”を憎み、彼を肯定し、話を聞こうとする私を憎み、引き受けたのではないだろうか――?

銃口は、そんな彼の頑なな決意を表すかのように、哀しいくらいぶれなかった。
だが、その向かう先は果たして私の胸なのだろうか――?
「どんな正義をかざそうと、とんな理想を背負おうと、どんな覚悟を背負おうと、人は死ぬ。そこに血が流れることを知っている人間なら、壊れるものが何かも知ってるはずだ。知っているなら、心にブレーキがかかるはずなんだ。・・・真っ当な人間ならな」
彼の瞳は、私を通り越して遥か遠くを眺めているようだった。今ではない、遥か遠く。
それが過去なのか、来るかもわからない未来なのかは、私にはわからない。
「俺にはもうなにもない。家も、祖国も、信念も、――守る者も。」
そう言って、彼は哀しげな瞳でようやく銃口を下ろした。淀んだ光を弾く瞳は、への字に結ばれた口元を映すように力なく垂れ下がった。
「それでも、そんな奴が語る理想にせよ――本当に世界が変わるものなら、俺だって見てみたいさ。見せてやりたいよ」
彼は左手に収めた拳銃をぎゅうと握り締める。

彼が会わせてくれた難民の人々。
ろくな扱いもされず、助けの手も差し伸べられないまま、病気や飢えで、老若男女、数え切れないほどの人たちがテントの中で苦しんでいた。
これから厳しくなる気候を考えれば、さらに状況は厳しくなるだろう。
国境を警備する兵隊たちは鉛の玉で彼らを追い返し、ニュースには「正当防衛」の文字。
その文字を見ながら、握り締められていた彼の拳が、目の前のそれと重なった。

穏やかな物腰と笑顔の中には、重い憎しみと、哀しみがつまっていた。
”片羽”の語ったように、世界に国境がなければ、彼らは苦しまないですむ?
あるいは、信じあえば彼らは救われる?

私には何の言葉も返せなかった。
彼は銃を持った左手をだらりとぶら下げたままジープにもたれかかる。その姿は、まるで失ったものを今尚悔やむように、項垂れているようだった。
彼には失ったものがある。そして、それはもう二度とは戻ってこない。
私は戸惑いながら、なおも彼の顔を見続けた。そこから僅かな言葉でも読み取れないかと期待して。
するとそんな私を見てか、彼は自らの眉間を人差し指でとんとんと叩いて言う。
「そんな顔すんな。自分を殺そうっていうアサシンを前に、おめでたいヤツだな」
私は彼のしてくれたこと、語ってくれたこと、見せてくれたこと、全てから彼を信頼している。
私が彼を恐れなかったのは、そして彼が私を撃たなかったのは、その証ではないのだろうか――?
そう信じたいと思うそのこと自体が、彼が言う”おめでたい”ことなのだろう。
長い沈黙をはさみ、彼はやっと煙草を離し、重い言葉を吐き出した。
「何事も、引き金を引くまでが、運命を変えれる最後の瞬間なんだ。弾が出ればもう止められない。未来は変わる。
私は、やはり何も言えずに彼を見つめ、立ち尽くしていた。
「解決を焦ってもいけない。何もしないことも解決にはならない。疑うことは容易く、信じることは難しいことなのかもしれない。・・・――それでも、伝えることに意味があるんだ。・・・きっとね・・・」
シモンはそう独り言ちて、自らに向けられる私の視線を払うように、唐突に銃の先を振った。
憮然とする私に向かって、再び、行けというように左手を払う。
「さっさと行っちまえ。本当に撃っちまうぞ」

彼が今信じようとしていること。
それは、きっと”片羽”の言葉を私がテレビという報道メディアで多くの人間に伝えることによって、”世界が変わっていく”ということ。
それは”片羽”の信じた世界か、私の信じた世界か、シモンの信じた世界なのか――誰の信じた世界になるのかは分からない。
だが、多くの人間が多くの幸せを願いあい、皆の幸福を信じあって生きていけたなら。世界は、確かな変化を経て、変わってゆけるのかもしれない。
その変化を彼はきっと信じているのだろう。

私は、再びシモンを見つめた。
「シモン、余計な御世話かもしれないが、ピクシーは、今はきっと・・・」
”片羽”を憎むシモンから、ピクシーを弁護しようと口を開きかける私を見て、彼は、煩わしそうに眉間に皺を寄せる。
「お人よしも大概にしな。”信じてるから自分の役割を全うできる”。俺たちのことはいい。あいつとはまた――話をするさ。昔の話でもな。」
私の開いた口からは、それ以上言葉の出しようがなかった。
「・・・そういうことだ戦友。俺の気が変わらないうちにさっさと行きな」
私は、銃で促されるがままに、彼に背を向けた。
彼が撃つかどうかはさておき――彼は、たった今引き金を引き、どこから受けたのかも分からない依頼を完遂することができるだろうに、それをしないという。
だが、一方で信じるのは難しい、という。
今私に出来ることは、ただ前へ、やってきた空軍基地の門へと歩をすすめることだけだった。
腑に落ちないまま足を前にと出す私の背中に、彼の呼びかけが追いつく。
「トンプソン。俺の見せたもの、どんな番組に仕上がろうが――絶対に忘れるなよ」
私は振り向く。
だが、その時にはすでに、彼はジープの運転席に座ってハンドルを握っていた。
けたたましい音を立ててエンジンが始動する。
そのエンジン音に負けないように、私は声を張り上げる。
「シモン、私は伝えるよ、真実を伝えるのが、私の役目なんだ!君の伝えた真実だって――」
彼は、皆まで聞かずいつもの笑顔で私に手を振ると、土埃をあげてそのまま走り去っていった。
その場には、最後まで腑に落ちない顔の私だけが取り残された。



彼の希望したもの。彼の絶望したもの。
私は、そのどれを伝え、どれを担うことになるのだろうか?







迷いながら歩を進めるそんな私の視線の先、そしてず太い針金に閉ざされた門の向こうで、懐かしい紫色の煙がぼんやりと煙っているのに気付く。
それを燻らす人物を私が思い出すのに、さほど時間はかからなかった。
そして、そんな私に向かって、彼はまるで傍観者のような顔で、門越しに軽口を投げかける。
「よう肝っ玉、鋼の肝は健在らしいな」
――馬車引きだった。


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