あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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今日もまた、降ってきた。
[2005年11月28日 午後12時50分]
一年のうち殆どを白い山々に囲まれるここヴァレー空軍基地は、今日もどんよりとした灰色の空から、飽きることなく白い雪を降り積もらせていた。
「降ってきたか」
灰色の世界を白く曇るガラス窓を通して眺め、私は呟く。
(まるで灰のような雪)
初めて”彼ら”が、ガルム隊として空に上がった、あの日。
奪還から侵略へと戦いが変貌した、あの日。
巨大な移動要塞フレスベルクが上空を通過し、強襲を受けたあの日。
そして道を違えた”彼ら”が再び出会うことになった、あの日。
思い返せば、雪はいつも皮肉なタイミングで降り注いでいた。
そして、今も。
全てが遠い過去でありながら、今へと繋がっている。天気までもが、それを覚えている。
私は、皮肉な笑みに頬を歪め、手に持つ制帽を被った。
コン、コン。
その時、扉を叩く音が背後から部屋に響いた。
私は、窓から半身を反らし、その呼びかけに応える。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、髪も白く生え変わった初老の参謀―――ヘルマン・ハーシェルだった。この参謀とも、この基地に来てから以来、十年越しの付き合いになる。
参謀は部屋に入ってくると、私にひとつ敬礼をして、口を開く。
「ご出立の準備は整いました。・・・が、その前に少し」
そう言いながら、彼はドアの脇に、つと退く。
何だ?と思う間にドアが開き、一人の軍服の男が新たに部屋に入ってきた。
その人物とは、私がこの基地の司令官になったその最後の日から久しく見ていない人物。彼は私の顔に一番に目を留めると、ニコリとも笑わないまま言った。
「相変わらずのようだな」
元ヴァレー空軍基地司令官ハーゲン・キルヒアイス少将だった。
私はとっさに敬礼の姿勢をとる。上官が戸口で部下が奥とは、違和感を覚えざるを得ない立ち位置だ。
「楽にしたまえ。今回は”お忍び”ということになってる」
「は」
私は敬礼を解いた。だが、その緊張がほどけるわけではない。彼はいったい何のためにこの基地に来たのか。理由は薄々わかっていた。
彼は、十年前のかつての仕事部屋を無造作に横切ると、私と入れ替わり窓際で足を留めた。
「・・・ここの眺めも変わらないな。雪ばかりだ」
私は直立不動でその言葉を受け止める。慣れ切った直立姿勢で、隣のヘルマンもその言葉を受け止める。飄々としたその表情から、彼の心根を推し量ることはやはりできそうにもなかった。
やがて、少将はおもむろに私の方に向き直ると、瞬きを許さないその鋭い瞳で予想通りの言葉を吐く。
「彼を迎えに行くのかね」
やはり、彼のことか。
私は据えた腹に力を入れ、少将を真正面からしっかりと捉え、答える。
「はい」
彼と私は、言葉もないままただ真っ直ぐに向かい合っていた。
ほんの短い間だが、お互いの瞳がお互いの瞳を探り合い、私は固めた腹をかき回されているような気にすらなった。
ややおいて、彼のほうが先に口を開く。
「そろそろ到着するころか」
「・・・?」
不意に外された彼の視線を追って、私の視線も脱脂綿のような雪が舞い散る外――滑走路へと移る。
そこには、まさに今到着したばかりの航空機が接地し、整備スポットまでのタキシングを行っていた。その航空機の背中には、これもまた非常に見慣れた、平たい円形の物体が備え付けられている。
「まさか・・・」
私は、それを見て唖然とする。
これからおこることは、むしろ逆だと思っていたからだ。
「君は私を情のない人間だと思っているようだが、たまには”トチ狂う”こともあるのだよ」
そう言って、彼はニコリとも笑わないまま白い紙を机に置く。何かの書類のコピーだ。
「いつまでも覆い隠しておけることではあるまい。”真実”を彼らと共に迎えに行ってやるといい。」
私は年甲斐もなくはやる動悸を抑え、再び窓の外に目を向ける。
そこには――
[2005年11月29日 午前1時?分]
静かな空の旅だった。
大地は遥か遠く、真っ黒に塗りつぶされた海と空が、境目なく見渡す限りに広がっていた。
出立してから数十分。ノイズひとつ送られなかった無線に、管制官の声が届く。
≪スカイホーク1へ、こちらスカイアイ。そろそろノースポイント領空を離脱しようとしている。空域を離脱したら速やかに無線の変更を。あとは洋上管制官の指示に従って飛行してくれ。≫
≪了解≫
しばしの沈黙の後、再び同じ男からの通信が入る。
≪一度領空を離脱した後の再入国は許可されない。忘れ物はないな?≫
≪・・・ああ≫
≪オーケー、それではよい旅を祈る――グッドラック!≫
そのやりとりが終わるのを計った様に、別の声が彼を呼ぶ。
≪おい≫
その声を彼も聞いたはずだが、特に反応は示さなかった。それでも、声は構わず続ける。
≪いつでもいい。また来いよ≫
「・・・」
かすかな空調装置の音以外、他に機内で音をたてるものはなかった。馬車引きも、例外ではない。
そんな彼の返事を待たず、声――おそらくユーニは、別れの挨拶を告げる。
≪じゃあな、グッドラック!≫
その言葉は空しく無線に響き、応えるものはなかった。
たった数分。飛行気の速度にして数百キロ離れた頃になってようやく、低い呟きがそれに応える。
≪鉄の翼に幸運を≫
馬車引きが時々管制の人間とやりとりをする以外は、空の旅は静かなものだった。
それに、やりとりといってもそう頻繁なものではない。
私は退屈まぎれに、インターホン越しに彼と話をしてみることにした。
考えてみれば、往きの会話はどちらかというと一方的な尋問であり、彼とは会話らしき会話をしていなかった気がする。
≪馬車引き、今度は少し君の話を聞かせてくれないか≫
≪断る≫
彼の返事はにべもなかった。
≪つれないな≫
≪つれてどうする≫
≪どうもしないよ≫
≪あそう≫
私はまるで子供が拗ねているかのようなその返し文句に、思わず吹き出してしまう。
≪もしかして、なにかあったのか?≫
狭いコクピットの中。
周りの音を拾うには分厚く、空を飛ぶには薄っぺらいヘルメットに阻まれて、お互いの声は聞こえない。
インターホンだけが前後で座る二人を繋ぐ唯一の手段だった。
≪――≫
インターホン越しに、大きなため息が吐き出され、だるそうな声が続く。
≪やけに食い下がるな。退屈で死にそうか?≫
≪そうなんだ。職業病でね、人と話してないと落ち着かない≫
≪クソして寝ろ≫
私は目を丸くする。
≪――と言たいところだが・・・まあいい、付き合ってやる。何が訊きたい≫
私は、何故かほっとして唇を湿らす。
≪考えてみれば・・・、”片羽の妖精”も、”鬼神”も、戦闘機パイロットなのに、私はパイロットのことを何も知らない。戦闘機乗りというのは、やっぱり私たちのような普通の人間とは違うのかい?≫
≪違わないさ。――アンタの方がよっぽどイカレてるよ≫
≪そいつはどうも≫
私は苦笑する。
≪君はどうしてパイロットになろうと?目がいいからかい?≫
≪いや≫
ほんの少し考えるような間のあと、彼の言葉は続く。
≪誰より空が好きだから≫
≪ほう?≫
≪空の上に順番はないが、こればっかりは負けられないな≫
そういって、馬車引きはほんの少し楽しそうに笑った。
その時どんな顔で彼が笑っていたのか、私には想像がつかない。だが、その笑い声は、今まで彼が発したどの声よりも”愉し”そうだった。それは意外でもあり、納得でもあった。
私は流れる闇に視界をうずめながら、質問を続ける。
≪パイロットは皆楽しんで空を飛んでる?≫
≪いいや≫
私の何気ない問いに、彼は即座に答えてきた。
そして、確認するように、もう一度はっきりと呟く。
≪――いいや≫
少し考え込むような間を挟み、言葉は続く。
≪パイロットにも2種類いる。前者は死を恐れ、後者は――それを望む≫
暗闇の向こう、計器の明かりに照らされて僅かに光る馬車引きの右手が、こめかみをトントンと人差し指で突く。
≪空にのめりこんじまうヤツってのは、皆どっかが”イカレ”ちまってるのさ≫
私は無言で頷く。
≪片羽はもう”空に上がらない”と誓っていた。――彼もどこかが狂っていたことに気付いたのかな≫
≪・・・≫
馬車引きは、その呟きに無反応だった。
それが意図しての無言だったのか、反応に困った末の無言だったのかは、私にはわからない。
それを確かめるためにも、私はもう少し踏み込んで彼に聞きたいことがあった。これを聞けば、もしかしたら放り出されるのかもしれない。だが、もはや私の”鉄の肝っ玉”とやらは、ちょっとやそっとのことではひるみもしなかった。
≪馬車引き、君は”片羽の妖精”を知っているのかい?ただの運転手にしては、彼のことをやけに気にしていた気がするが≫
その問いに対して、相変わらず反応はない。だが私は続ける。
≪君は運転手といっていたが、本当は何か私の監視役だったんだろう?君自身、私を”片羽”に接触させたくない連中とやらの一人なのかい?≫
彼の左手がワイヤーのバックミラーを軽く撫で、また戻る。
≪・・・≫
どちらの沈黙かはわからない。ヘルメットの中は、静寂が支配していた。
やがて、根負けしたのか馬車引きが先に口を開く。
≪単なる個人的な興味さ≫
「・・・」
私は沈黙せざるをえなかった。
たしかに、彼が仕事のルールを逸脱していようがなんだろうが、個人的な興味の範囲だといわれれば、それまでだ。そして彼の興味は所詮、その範囲に収まってしまう程度であることも、私の感じたところの事実だ。
≪仕事としては感心しないね≫
≪そりゃ失礼≫
私は彼に対する異質感を覚えていた。
たしかに声を出し合って話しをしているはずなのに、まるで話し手が迷路に迷い込むような受け答えを、彼はする。侵入者を迷わせ、拒むような壁を、自ら作り出している。
それが悪いとは思わないが――
≪・・・思わないが、随分淋しい話じゃないか≫
思わず漏れた呟きに呼応するように、機体が緩やかに揺れた。
サラサラと、波の流れる音がする。気分はまるで、小船に乗って揺られているようだった。
≪空の上は広くて寂しいぞ。なにしろ、この狭いコクピットに、たった独りっきりなんだからな≫
私はその囁くような声に、頷く。
一介の報道記者も、ヒーローも、英雄も、野犬も、テロリストも、空の上ではみんな平等にたった独りなのだから。
≪みな、同じ。なあ、空の上は淋しいぞ≫
サラサラと砂の音が聞こえる。
≪――≫
誰かのため息が、無線に混じった。
≪この期に及んで勧誘か≫
≪みな独りでいるのを怖がるから、死を恐れる≫
≪死を恐れないのは英雄か、――テロリストか。≫
――え?
そのときだった。
――WARNING
誰かが、頭の中で警告を告げる。
――レーダー の照射を 受けてます
レーダー?
この声、この音には聞き覚えがあった。
そう、この声を聞く機会があるとすれば、一度しかない。
≪まさか・・・また待ち伏せされて!?≫
私の悲鳴に近いインターホンにも、馬車引きは無言のまま答えない。無線を開こうとすらしなかった。有事で配線が切り替わったのか、やたらザラザラという音が耳につく。
私は恐怖に急かされ、もう一度インターホンのボタンを押そうとする。
――が、その指が止まる。
私は、彼を信じるのではなかったのか?
思えば最初、駅で突き飛ばされたとき。そして、車に乗り込んだとき。
私は覚悟を決めたのではなかったか?
私は、寸前まで込めていた指の力を、意図的に抜いた。
――WARNING!
もう一度、機械的な音声が警告を叫ぶ。
機体はぶれもせず真っ直ぐに飛び、馬車引きは無言のままだった。
――ピ
何かの音がした。
これが何を表す音か、私は知らない。
知らないが、私は意図的に抜いた指の力をもう一度入れ直し、インターホンのボタンを押した。
”帰りも送ってやる。”
私には、その言葉を信じることしか出来ない。
そしてそれが、今の私の役目だ。
≪頼みます≫
伝えたのは、それだけだった。
ピ ピ ピ
何かの電子音が、不吉なリズムを刻む。
馬車引きは、それを聞いてなお無言のままだった。
彼の指示を待つように、機体はただ静かに浮かんでいる。
大丈夫。
私は顎を引き、目を閉じた。
聞こえてくるのは、静かなエンジン音、規則正しい何かの電子音。
その電子音が、リズムを早めていく。
――大丈夫。
機体は、なおも静かに浮かび続けている。まるで、彼を信じきっているかのように。
ピピピ・・・
≪――≫
ほんの一瞬。ノイズ越しに舌打ちが聞こえたような気がした。
大丈夫!
確信は、現実に変わった。
≪しょうのないヤツらだ!≫
その言葉と同時だろうか、世界が勢いよく回転する。
けたたましいアラーム音は今や一続きの電子音を奏でていた。その音に命を得たように、機体は軽やかに宙を踊る。
ぐうっと押し付けられるキャノピーの向こうで何か小さなものが、一瞬すれ違った気がした。
・・・――それだけだった。
≪ミサイル、ブレイク。≫
特に普段と変わらない馬車引きの声が、静かな無線から零れる。
≪――よう肝っ玉、鋼鉄の肝はまだちゃんと席に乗っかってるか?≫
その余裕に、私は何故か弾みだした胸で、勢いよく返事を返す。
≪お陰様で!≫
≪上等だ!≫
馬車引きが無線の向こうで、ニヤリと頬を歪めるのが”見えた”気がした。
そしてすぐさま、彼はいつもと変わらぬ声音で続ける。
≪どうやら帰りもお出迎えしてもらえたみたいだぜ。聞こえてたか?≫
≪いや、・・・すまない、聞こえてなかった。≫
≪そうか。・・・考えにふけるのは結構だが、引き込まれてくれるなよ。回収しないからな≫
≪――?≫
何のことかわからなかった。だが、ひとつわかったことがある。
私は、背中に大量の冷や汗をかいていた。
「・・・」
私はつなぎの腹をぐいと引っ張って、汗を拭う。
≪・・・肝に銘じるよ≫
≪鋼鉄の肝に悪運を≫
そういって彼は、機体をぐーんと落下させる。
≪待っていたぞ≫
これからが、悪夢の始まりだった。
一年のうち殆どを白い山々に囲まれるここヴァレー空軍基地は、今日もどんよりとした灰色の空から、飽きることなく白い雪を降り積もらせていた。
「降ってきたか」
灰色の世界を白く曇るガラス窓を通して眺め、私は呟く。
(まるで灰のような雪)
初めて”彼ら”が、ガルム隊として空に上がった、あの日。
奪還から侵略へと戦いが変貌した、あの日。
巨大な移動要塞フレスベルクが上空を通過し、強襲を受けたあの日。
そして道を違えた”彼ら”が再び出会うことになった、あの日。
思い返せば、雪はいつも皮肉なタイミングで降り注いでいた。
そして、今も。
全てが遠い過去でありながら、今へと繋がっている。天気までもが、それを覚えている。
私は、皮肉な笑みに頬を歪め、手に持つ制帽を被った。
コン、コン。
その時、扉を叩く音が背後から部屋に響いた。
私は、窓から半身を反らし、その呼びかけに応える。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、髪も白く生え変わった初老の参謀―――ヘルマン・ハーシェルだった。この参謀とも、この基地に来てから以来、十年越しの付き合いになる。
参謀は部屋に入ってくると、私にひとつ敬礼をして、口を開く。
「ご出立の準備は整いました。・・・が、その前に少し」
そう言いながら、彼はドアの脇に、つと退く。
何だ?と思う間にドアが開き、一人の軍服の男が新たに部屋に入ってきた。
その人物とは、私がこの基地の司令官になったその最後の日から久しく見ていない人物。彼は私の顔に一番に目を留めると、ニコリとも笑わないまま言った。
「相変わらずのようだな」
元ヴァレー空軍基地司令官ハーゲン・キルヒアイス少将だった。
私はとっさに敬礼の姿勢をとる。上官が戸口で部下が奥とは、違和感を覚えざるを得ない立ち位置だ。
「楽にしたまえ。今回は”お忍び”ということになってる」
「は」
私は敬礼を解いた。だが、その緊張がほどけるわけではない。彼はいったい何のためにこの基地に来たのか。理由は薄々わかっていた。
彼は、十年前のかつての仕事部屋を無造作に横切ると、私と入れ替わり窓際で足を留めた。
「・・・ここの眺めも変わらないな。雪ばかりだ」
私は直立不動でその言葉を受け止める。慣れ切った直立姿勢で、隣のヘルマンもその言葉を受け止める。飄々としたその表情から、彼の心根を推し量ることはやはりできそうにもなかった。
やがて、少将はおもむろに私の方に向き直ると、瞬きを許さないその鋭い瞳で予想通りの言葉を吐く。
「彼を迎えに行くのかね」
やはり、彼のことか。
私は据えた腹に力を入れ、少将を真正面からしっかりと捉え、答える。
「はい」
彼と私は、言葉もないままただ真っ直ぐに向かい合っていた。
ほんの短い間だが、お互いの瞳がお互いの瞳を探り合い、私は固めた腹をかき回されているような気にすらなった。
ややおいて、彼のほうが先に口を開く。
「そろそろ到着するころか」
「・・・?」
不意に外された彼の視線を追って、私の視線も脱脂綿のような雪が舞い散る外――滑走路へと移る。
そこには、まさに今到着したばかりの航空機が接地し、整備スポットまでのタキシングを行っていた。その航空機の背中には、これもまた非常に見慣れた、平たい円形の物体が備え付けられている。
「まさか・・・」
私は、それを見て唖然とする。
これからおこることは、むしろ逆だと思っていたからだ。
「君は私を情のない人間だと思っているようだが、たまには”トチ狂う”こともあるのだよ」
そう言って、彼はニコリとも笑わないまま白い紙を机に置く。何かの書類のコピーだ。
「いつまでも覆い隠しておけることではあるまい。”真実”を彼らと共に迎えに行ってやるといい。」
私は年甲斐もなくはやる動悸を抑え、再び窓の外に目を向ける。
そこには――
[2005年11月29日 午前1時?分]
静かな空の旅だった。
大地は遥か遠く、真っ黒に塗りつぶされた海と空が、境目なく見渡す限りに広がっていた。
出立してから数十分。ノイズひとつ送られなかった無線に、管制官の声が届く。
≪スカイホーク1へ、こちらスカイアイ。そろそろノースポイント領空を離脱しようとしている。空域を離脱したら速やかに無線の変更を。あとは洋上管制官の指示に従って飛行してくれ。≫
≪了解≫
しばしの沈黙の後、再び同じ男からの通信が入る。
≪一度領空を離脱した後の再入国は許可されない。忘れ物はないな?≫
≪・・・ああ≫
≪オーケー、それではよい旅を祈る――グッドラック!≫
そのやりとりが終わるのを計った様に、別の声が彼を呼ぶ。
≪おい≫
その声を彼も聞いたはずだが、特に反応は示さなかった。それでも、声は構わず続ける。
≪いつでもいい。また来いよ≫
「・・・」
かすかな空調装置の音以外、他に機内で音をたてるものはなかった。馬車引きも、例外ではない。
そんな彼の返事を待たず、声――おそらくユーニは、別れの挨拶を告げる。
≪じゃあな、グッドラック!≫
その言葉は空しく無線に響き、応えるものはなかった。
たった数分。飛行気の速度にして数百キロ離れた頃になってようやく、低い呟きがそれに応える。
≪鉄の翼に幸運を≫
馬車引きが時々管制の人間とやりとりをする以外は、空の旅は静かなものだった。
それに、やりとりといってもそう頻繁なものではない。
私は退屈まぎれに、インターホン越しに彼と話をしてみることにした。
考えてみれば、往きの会話はどちらかというと一方的な尋問であり、彼とは会話らしき会話をしていなかった気がする。
≪馬車引き、今度は少し君の話を聞かせてくれないか≫
≪断る≫
彼の返事はにべもなかった。
≪つれないな≫
≪つれてどうする≫
≪どうもしないよ≫
≪あそう≫
私はまるで子供が拗ねているかのようなその返し文句に、思わず吹き出してしまう。
≪もしかして、なにかあったのか?≫
狭いコクピットの中。
周りの音を拾うには分厚く、空を飛ぶには薄っぺらいヘルメットに阻まれて、お互いの声は聞こえない。
インターホンだけが前後で座る二人を繋ぐ唯一の手段だった。
≪――≫
インターホン越しに、大きなため息が吐き出され、だるそうな声が続く。
≪やけに食い下がるな。退屈で死にそうか?≫
≪そうなんだ。職業病でね、人と話してないと落ち着かない≫
≪クソして寝ろ≫
私は目を丸くする。
≪――と言たいところだが・・・まあいい、付き合ってやる。何が訊きたい≫
私は、何故かほっとして唇を湿らす。
≪考えてみれば・・・、”片羽の妖精”も、”鬼神”も、戦闘機パイロットなのに、私はパイロットのことを何も知らない。戦闘機乗りというのは、やっぱり私たちのような普通の人間とは違うのかい?≫
≪違わないさ。――アンタの方がよっぽどイカレてるよ≫
≪そいつはどうも≫
私は苦笑する。
≪君はどうしてパイロットになろうと?目がいいからかい?≫
≪いや≫
ほんの少し考えるような間のあと、彼の言葉は続く。
≪誰より空が好きだから≫
≪ほう?≫
≪空の上に順番はないが、こればっかりは負けられないな≫
そういって、馬車引きはほんの少し楽しそうに笑った。
その時どんな顔で彼が笑っていたのか、私には想像がつかない。だが、その笑い声は、今まで彼が発したどの声よりも”愉し”そうだった。それは意外でもあり、納得でもあった。
私は流れる闇に視界をうずめながら、質問を続ける。
≪パイロットは皆楽しんで空を飛んでる?≫
≪いいや≫
私の何気ない問いに、彼は即座に答えてきた。
そして、確認するように、もう一度はっきりと呟く。
≪――いいや≫
少し考え込むような間を挟み、言葉は続く。
≪パイロットにも2種類いる。前者は死を恐れ、後者は――それを望む≫
暗闇の向こう、計器の明かりに照らされて僅かに光る馬車引きの右手が、こめかみをトントンと人差し指で突く。
≪空にのめりこんじまうヤツってのは、皆どっかが”イカレ”ちまってるのさ≫
私は無言で頷く。
≪片羽はもう”空に上がらない”と誓っていた。――彼もどこかが狂っていたことに気付いたのかな≫
≪・・・≫
馬車引きは、その呟きに無反応だった。
それが意図しての無言だったのか、反応に困った末の無言だったのかは、私にはわからない。
それを確かめるためにも、私はもう少し踏み込んで彼に聞きたいことがあった。これを聞けば、もしかしたら放り出されるのかもしれない。だが、もはや私の”鉄の肝っ玉”とやらは、ちょっとやそっとのことではひるみもしなかった。
≪馬車引き、君は”片羽の妖精”を知っているのかい?ただの運転手にしては、彼のことをやけに気にしていた気がするが≫
その問いに対して、相変わらず反応はない。だが私は続ける。
≪君は運転手といっていたが、本当は何か私の監視役だったんだろう?君自身、私を”片羽”に接触させたくない連中とやらの一人なのかい?≫
彼の左手がワイヤーのバックミラーを軽く撫で、また戻る。
≪・・・≫
どちらの沈黙かはわからない。ヘルメットの中は、静寂が支配していた。
やがて、根負けしたのか馬車引きが先に口を開く。
≪単なる個人的な興味さ≫
「・・・」
私は沈黙せざるをえなかった。
たしかに、彼が仕事のルールを逸脱していようがなんだろうが、個人的な興味の範囲だといわれれば、それまでだ。そして彼の興味は所詮、その範囲に収まってしまう程度であることも、私の感じたところの事実だ。
≪仕事としては感心しないね≫
≪そりゃ失礼≫
私は彼に対する異質感を覚えていた。
たしかに声を出し合って話しをしているはずなのに、まるで話し手が迷路に迷い込むような受け答えを、彼はする。侵入者を迷わせ、拒むような壁を、自ら作り出している。
それが悪いとは思わないが――
≪・・・思わないが、随分淋しい話じゃないか≫
思わず漏れた呟きに呼応するように、機体が緩やかに揺れた。
サラサラと、波の流れる音がする。気分はまるで、小船に乗って揺られているようだった。
≪空の上は広くて寂しいぞ。なにしろ、この狭いコクピットに、たった独りっきりなんだからな≫
私はその囁くような声に、頷く。
一介の報道記者も、ヒーローも、英雄も、野犬も、テロリストも、空の上ではみんな平等にたった独りなのだから。
≪みな、同じ。なあ、空の上は淋しいぞ≫
サラサラと砂の音が聞こえる。
≪――≫
誰かのため息が、無線に混じった。
≪この期に及んで勧誘か≫
≪みな独りでいるのを怖がるから、死を恐れる≫
≪死を恐れないのは英雄か、――テロリストか。≫
――え?
そのときだった。
――WARNING
誰かが、頭の中で警告を告げる。
――レーダー の照射を 受けてます
レーダー?
この声、この音には聞き覚えがあった。
そう、この声を聞く機会があるとすれば、一度しかない。
≪まさか・・・また待ち伏せされて!?≫
私の悲鳴に近いインターホンにも、馬車引きは無言のまま答えない。無線を開こうとすらしなかった。有事で配線が切り替わったのか、やたらザラザラという音が耳につく。
私は恐怖に急かされ、もう一度インターホンのボタンを押そうとする。
――が、その指が止まる。
私は、彼を信じるのではなかったのか?
思えば最初、駅で突き飛ばされたとき。そして、車に乗り込んだとき。
私は覚悟を決めたのではなかったか?
私は、寸前まで込めていた指の力を、意図的に抜いた。
――WARNING!
もう一度、機械的な音声が警告を叫ぶ。
機体はぶれもせず真っ直ぐに飛び、馬車引きは無言のままだった。
――ピ
何かの音がした。
これが何を表す音か、私は知らない。
知らないが、私は意図的に抜いた指の力をもう一度入れ直し、インターホンのボタンを押した。
”帰りも送ってやる。”
私には、その言葉を信じることしか出来ない。
そしてそれが、今の私の役目だ。
≪頼みます≫
伝えたのは、それだけだった。
ピ ピ ピ
何かの電子音が、不吉なリズムを刻む。
馬車引きは、それを聞いてなお無言のままだった。
彼の指示を待つように、機体はただ静かに浮かんでいる。
大丈夫。
私は顎を引き、目を閉じた。
聞こえてくるのは、静かなエンジン音、規則正しい何かの電子音。
その電子音が、リズムを早めていく。
――大丈夫。
機体は、なおも静かに浮かび続けている。まるで、彼を信じきっているかのように。
ピピピ・・・
≪――≫
ほんの一瞬。ノイズ越しに舌打ちが聞こえたような気がした。
大丈夫!
確信は、現実に変わった。
≪しょうのないヤツらだ!≫
その言葉と同時だろうか、世界が勢いよく回転する。
けたたましいアラーム音は今や一続きの電子音を奏でていた。その音に命を得たように、機体は軽やかに宙を踊る。
ぐうっと押し付けられるキャノピーの向こうで何か小さなものが、一瞬すれ違った気がした。
・・・――それだけだった。
≪ミサイル、ブレイク。≫
特に普段と変わらない馬車引きの声が、静かな無線から零れる。
≪――よう肝っ玉、鋼鉄の肝はまだちゃんと席に乗っかってるか?≫
その余裕に、私は何故か弾みだした胸で、勢いよく返事を返す。
≪お陰様で!≫
≪上等だ!≫
馬車引きが無線の向こうで、ニヤリと頬を歪めるのが”見えた”気がした。
そしてすぐさま、彼はいつもと変わらぬ声音で続ける。
≪どうやら帰りもお出迎えしてもらえたみたいだぜ。聞こえてたか?≫
≪いや、・・・すまない、聞こえてなかった。≫
≪そうか。・・・考えにふけるのは結構だが、引き込まれてくれるなよ。回収しないからな≫
≪――?≫
何のことかわからなかった。だが、ひとつわかったことがある。
私は、背中に大量の冷や汗をかいていた。
「・・・」
私はつなぎの腹をぐいと引っ張って、汗を拭う。
≪・・・肝に銘じるよ≫
≪鋼鉄の肝に悪運を≫
そういって彼は、機体をぐーんと落下させる。
≪待っていたぞ≫
これからが、悪夢の始まりだった。
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≪玄関でお出迎えだ!≫
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