あおはとのゲーム雑記。元々AceCombatブログでしたが今はいろいろ・・・
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[2005年11月28日 午後11時32分]
約束通り、ユーニは出立の一時間半前に起こしに来てくれた。
彼は上下ひと続きのつなぎにフライトジャケットといういでたちだった。
約束通り、ユーニは出立の一時間半前に起こしに来てくれた。
彼は上下ひと続きのつなぎにフライトジャケットといういでたちだった。
外に出ると、あたりにはすでに闇が落ちており、ほかに飛び立つ飛行機もないのか、基地の空は静かだった。
吐く息が白くなるほどの凍てつく空気が、満天の星を妙にくっきりと映し出している。
彼は止めてあったジープの運転席に乗り込むと、私に隣に乗るよう促した。
整備兵ではなく、彼がわざわざ迎えに来てくれるのには何か意味があるのだろうか?
私が乗り込むと、荒々しい震えとともに、ここ二週間の中では天国のような滑らかさで、ジープが動きだした。
しばらく彼は、冷え冷えとした闇の中を黙々と車を動かしていたが、たまりかねたようにぎゅっと結んでいた口を開いた。
「・・・なあ、片羽は元気だったか?」
その唐突な問いを不思議に思いながら、私は頷き返す。
「えーと、ほら、」そんな私の顔色を読んだかのように、ユーニがしどろもどろと言葉を付け足す。「昔一部じゃ有名人だったんだよ、アイツ」
”片羽の妖精”、その名を彼自身も昔聞いたことがあるのだという。
だがそれを語る彼の態度は、顔こそ笑っているが、どこかしら落ち着かない。
「あんたはどういう取材してきたんだ?話せる範囲でいいから暇つぶしに教えてくれよ」
あまり親しくないとはいえ、これぐらいの愛想は社交辞令だろう。
私の頭の中に馬車引きの顔がよぎったのは、言うまでもない。
私は、彼に向かってベルカ戦争のエースパイロットたちを追っていること、特にガルム隊を詳しく調べていること等、話せる部分を簡単に話す。
さらに、逆に質問もしてみる。
「あなた自身もベルカ戦争で活躍されたんです?」
「いやあ~・・・」
ユーニはハンドルを握ったまま、目をくるくるさせる。
「ちょこっとだけだよ。隊の事情で、すぐに別んトコ行った」
「じゃあ、”片羽”の噂もその時聞いたんですね?」
「ん、まあそんなようなトコ。」
彼は歯切れの悪い返事の後、それっきり黙って車を走らせる。
私がジャーナリストだからというわけではないが、明らかに彼の態度はどこかしらおかしいような気がした。彼の方から聞いておいて、あからさまに挙動不審だ。
私は彼の性格を踏まえて、ストレートに聞いてみる。
「実は、あなたは”片羽”を知っているのでは?」
一瞬彼のハンドルを握る手が動く。車がほんの少し左に流れる。
「・・噂は知ってる。」
やっぱり、怪しい。
「私が想像するに―――あなたは彼に会ったことがあるのでは?」
私のその問いに、ユーニはあからさまに動揺していた。
「いや」
そう答えようとした彼に、私は言葉を被せる。
「人間って」
彼がハッとしたようにこちらに視線を向ける。
「ウソをつくとき、瞬きが多くなるんだそうですよ」
彼がそれを確認するように、こちらに向けたその茶色の瞳が二、三度瞬いた。
ウソをつくとき―――とは、あながち間違いではないが、本当はハッタリだ。
「・・・・」
私のハッタリに、きょろきょろと視線を動かした後、彼は観念したように呻いた。
「あ~・・・・。やっぱ本職には敵わねえや。ウソを見抜くのも仕事のうちだもんなあ。これだからブンヤは怖えや。」
彼は、力の入っていた肩を大きく下げてみせる。
「たしかに会ったことはある。一緒に飛んだこともある。」
「それじゃあ」
私が顔を輝かせて何か聞こうとする前に、今度は彼が言葉を被せてきた。
「俺がピクシーを気にするのは、昔のよしみってんのかな。・・この戦争でも、一杯大事なヤツを失くしちゃったからさ。生きてるって知ったら、なんか俺は・・・あくまで俺はだけどさ、会いたくなったんだよ。・・・これって普通だよな?」
「はあ」
逆に、私のほうが聞き返されてしまった。
「ごめんよ、話せないこともあるもんな。俺は俺で探してみることにするよ。」
彼は勝手に自己完結すると、話はこれで終わりだといわんばかりに真っ直ぐに前を向いたままこちらに見向きもしなくなった。
私はそんな彼の横でコッソリ肩をすくめる。
”片羽”に関する貴重な証言が、思わぬところでとれるかと思ったのだが・・・・
そんな私にむかって、暫く車を走らせ思い出したように彼が呟く。
「仕事じゃなくてもさ、喋っちゃいけないことってあるんだよな。」
・・それは、つまりは”片羽”のことなのだろう。
私はあえてそれ以上は尋ねずに、ため息と共にただシートに深く腰をかけなおした。
しばらく走ると、立ち並ぶかまぼこ型のハンガーのうち、ひとつだけ明かりのついているハンガーが見えてきた。
基地の端の端、ランウェイすら遠くて見えなくなるような端場である。
その黄色い明かりの中で、私がつい数週間前に見た機体が堂々と鎮座していた。両翼と尾翼が紺色にペイントされた、ストライクイーグルだ。
その機体の前で、二人の男が何やら立ち話をしている。
「あーーーーー!」
ユーニはそれを見るや否や、荒っぽくハンガーの前にジープを横付けすると、エンジンを止めるのももどかしげに飛び降りて二人に走り寄る。
そしてこちらに背中を向けて熱心に話し込んでいる、白い髪の男性の首を後ろから抱え込むと、ぐいっと引っ張った。
「メビウス!こんな奴と喋っちゃダメ!ばい菌が感染るッ!」
「ばい菌?・・・」
「大丈夫ですよ、ちゃんと健康診断は受けていただいたはず」
「いや、そういう問題じゃなくてね?」
真顔で返答するメビウスに、ユーニが子供を諭すような苦い顔でつっこむ。
私もようやくジープを降り、三人の傍に荷物を引きずって歩み寄る。
もしかして、この目の前に居るのがメビウス1、こと大陸戦争の英雄だろうか・・・?
二人の様子を腕組みをして呆れた様で眺める馬車引きが、こちらに気付いて肩をすくめる。
「もうそんな時間だっけな。出立の準備でもしますか」
「え、もしかしてずっと喋ってたのか?」
「いえ、つい先ほどからですよ。・・・って、もう30分も経ってたみたいですね」
「みたいですねって」
「はいはい、飛ぶ人はさっさと行く。」
馬車引きがユーニに向かってしっしっと手を振ってみせる。
「俺はゴキブリか!」
「少なくとも生命力は。」
「やっかましい!」
からかうメビウス1の首根っこを掴んだままユーニはジープに向かうと、馬車引きのほうをキッと振り返った。
「今のうちに後方警戒レーダーの調子でもせいぜいチェックしとくんだな!」
「それでは私はお先にお休みさせていただきます、―――よい空の旅を!」
肩をすくめる馬車引きを尻目に、二人は方々バラバラのことを吐いて、ジープに乗り込んで走り去っていった。
「・・・賑やかでしたね」
「全くだ」
大きく息をつくと、彼は私をハンガーの隅に来るよう案内した。
そして、行きと同じように、自分では出来ないフライトの準備をしてもらう。
フライトの時間まで、あと一時間ほど。
私は荷物を床底に固定してもらい、フライトスーツの着方を教えてもらいながら、なんとか準備を終える。
馬車引きは馬車引きで、フライト前のチェックや別の作業も同時にこなし、手持ち無沙汰の私とは反比例して忙しそうだった。
「綺麗な機体ですね。まだ新しい子ですか?」
「いや、自分のじゃなくてね。借り物なんだ」
その合間に、私は興味半分でさきほどの話を聞いてみることにした。
「英雄さんと何を話してたんです?」
すると、彼は間髪いれずに即答してきた。
「飛行機のオハナシ」
なるほど、パイロット同士で話をするといったら・・・当然の話題かもしれない。
「他には?」
「他にあるのか?」
「・・・」
さも当然そうなその問いかけに、私の方が沈黙してしまう。
パイロットって、皆こんなもんなんだろうか。
そんな風に方々の人間と話しをしながら、彼は後座に乗るためのラダーを持ってきてくれた。脚立付きの大きいやつだ。
「さて、故郷に・・・」
帰るとしますか。
たぶん、続きはそんなような言葉だったのだろうと思う。
だが、その言葉は、座席に乗り込もうとした私を見つめたまま、不自然に途切れた。
「?何か?」
私の問いかけに、彼は無言で首を左右に振って答えた。心なしか、顔色が悪い。
「・・・乗り方は、解るな?」
意気に呑まれて同じく無言で頷いた私が席に座るのを見届けると、彼は他に言葉もなく、ラダーを降りていった。
私は辺りを見回す。が、特に変わったところは見られない。
気になって周りの整備員を見回すが、逆に私のほうが不思議な目で見つめ返されただけだった。
私はシートの周りを一通り見回す。無線のボタン、射出座席のレバー。教えてもらったのは、両手で数え切れないほどのボタンの中の、ほんの一部だけだ。
それも早々に終わってしまい、私は座席に座ったまま外を見回す。
いつの間にか、馬車引きがハンガーから姿を消していた。
「あれ、操縦者の方は?」
「そろそろ最終チェックしないと時間間に合わないんじゃないかな。ここ遠いし」
「誰か探してこいよ」
「困るなあ」
しばらくして戻ってきた馬車引きからは、微かにシガーの匂いがした。
フライト前に一服?
私にはそれが普通なのかありえないことなのかよくわからなかったが、少なくとも周りの整備員の目は、奇異の目であったように思う。
間もなく、機体が甲高い音をたてて起動しだした。
ターボファンの空気を吸い込む音が、エンジンの回転数が、徐々に高くなっていく。
私の身の回りの準備も整備員の人がしてくれ、座席越しに、馬車引きが手振り身振りで合図をし、いよいよキャノピーが閉まり始める。
ほどなくして、機体がゆっくり前へと進み始める。
ハンガーの壁がゆるゆるとずれてゆき、機体は仄かな明かりのみが点る、真っ暗な滑走路へと踏み出した。
機体は闇の中を低速で、ただひたすら真っ直ぐに進み続ける。
いつの間にか私の耳には空気を吸い込む甲高いエンジンの音と、自分の呼吸音しか聞こえなくなっていた。
いよいよ帰るんだ、そんな実感が湧かなかったといえば嘘になるが、まるで一続きの映画のシーンを見ているように、それは何気なく流れていった。
随分長い間進んだだろうか。機体がギュ、という制動をかけて止まる。
何かしら無線でやり取りをした後、私にも分かるように馬車引きが言い直す。
≪ここで暫く止まる。ヤツらが先に上がる≫
チラリと見えた前席の手袋は、はるか滑走路の向こう、反対側からやってくる3台の航空機―――F/A-22を指しているようだった。
その機体は、私たちと同じようにゆるゆると滑走路までやってくると、ランウェイ手前で一度止まる。そして3機そろって一気に加速し、私の首を振り切って空へと上がっていった。
それを見届けた馬車引きが、何かしらやりとりをした後にブレーキを外し、同じように滑走路へと入っていった。
エンジン音が甲高くなる。私の体がぐっとシートに押し付けられる。
絶え間ない無線の後、機体が蹴飛ばされるように加速し、ふっと振動をやめた。
振り向けば真っ暗闇な地面がどんどん遠ざかり、基地の明かりも、ハンガーの明かりも急激に小さくなり、やがて見えなくなった。
あっという間だった。
その頃にはエンジンの爆音も静かになっており、目の前には薄明るく輝く月が音もなくただ浮かんでいるのみだった。
≪スカイホーク1へ、こちらスカイアイ。GCIより管制を引き継ぐ。進路そのまま、上昇して19000ftを維持せよ≫
≪スカイホーク1、了解≫
≪経路は飛行計画通り。短い間だが、よろしく頼むよ≫
≪コピー≫
そんなやりとりの中、別の声が無線に割り込む。
≪スカイホーク1へ。こちらメビウス1。今日は俺が隊長だ。後方警戒レーダーの調子は万全か?≫
≪ばっちり丸見えだ≫
≪ハッタリ野郎め≫
声からするに、無線の主はユーニであろう。メビウス隊とはいえ、時によって隊長は変わるのかもしれない。先ほどハンガーで見た彼ではなく、今日はユーニがメビウス1のようだ。
私は首をめぐらせて後ろを見やるが、スカイアイとやらも、メビウス隊とやらも見つけることは出来ない。
目には見えない監視。彼らは、こちらが不審な行動を見せれば、すぐに撃墜できる位置についているのだろう。―――ぴったりと。
今更ながら、その得体の知れない恐怖と、戦時の緊張というものを肌で感じる。
そんなタイミングで、馬車引きから無線が入る。
≪まあこれからあと3時間ばかしは特にすることもない。景色でも楽しんでてくれ。≫
≪はい、了解しました≫
たどたどしい私の無線の後、あたりは静寂に包まれ、エンジンのほかに音をたてるものはなくなった。
帰国まで3時間。
私の長い旅は終わりを告げようとしていた。
※ちょっと長いので、あとで割愛するかもしれません
吐く息が白くなるほどの凍てつく空気が、満天の星を妙にくっきりと映し出している。
彼は止めてあったジープの運転席に乗り込むと、私に隣に乗るよう促した。
整備兵ではなく、彼がわざわざ迎えに来てくれるのには何か意味があるのだろうか?
私が乗り込むと、荒々しい震えとともに、ここ二週間の中では天国のような滑らかさで、ジープが動きだした。
しばらく彼は、冷え冷えとした闇の中を黙々と車を動かしていたが、たまりかねたようにぎゅっと結んでいた口を開いた。
「・・・なあ、片羽は元気だったか?」
その唐突な問いを不思議に思いながら、私は頷き返す。
「えーと、ほら、」そんな私の顔色を読んだかのように、ユーニがしどろもどろと言葉を付け足す。「昔一部じゃ有名人だったんだよ、アイツ」
”片羽の妖精”、その名を彼自身も昔聞いたことがあるのだという。
だがそれを語る彼の態度は、顔こそ笑っているが、どこかしら落ち着かない。
「あんたはどういう取材してきたんだ?話せる範囲でいいから暇つぶしに教えてくれよ」
あまり親しくないとはいえ、これぐらいの愛想は社交辞令だろう。
私の頭の中に馬車引きの顔がよぎったのは、言うまでもない。
私は、彼に向かってベルカ戦争のエースパイロットたちを追っていること、特にガルム隊を詳しく調べていること等、話せる部分を簡単に話す。
さらに、逆に質問もしてみる。
「あなた自身もベルカ戦争で活躍されたんです?」
「いやあ~・・・」
ユーニはハンドルを握ったまま、目をくるくるさせる。
「ちょこっとだけだよ。隊の事情で、すぐに別んトコ行った」
「じゃあ、”片羽”の噂もその時聞いたんですね?」
「ん、まあそんなようなトコ。」
彼は歯切れの悪い返事の後、それっきり黙って車を走らせる。
私がジャーナリストだからというわけではないが、明らかに彼の態度はどこかしらおかしいような気がした。彼の方から聞いておいて、あからさまに挙動不審だ。
私は彼の性格を踏まえて、ストレートに聞いてみる。
「実は、あなたは”片羽”を知っているのでは?」
一瞬彼のハンドルを握る手が動く。車がほんの少し左に流れる。
「・・噂は知ってる。」
やっぱり、怪しい。
「私が想像するに―――あなたは彼に会ったことがあるのでは?」
私のその問いに、ユーニはあからさまに動揺していた。
「いや」
そう答えようとした彼に、私は言葉を被せる。
「人間って」
彼がハッとしたようにこちらに視線を向ける。
「ウソをつくとき、瞬きが多くなるんだそうですよ」
彼がそれを確認するように、こちらに向けたその茶色の瞳が二、三度瞬いた。
ウソをつくとき―――とは、あながち間違いではないが、本当はハッタリだ。
「・・・・」
私のハッタリに、きょろきょろと視線を動かした後、彼は観念したように呻いた。
「あ~・・・・。やっぱ本職には敵わねえや。ウソを見抜くのも仕事のうちだもんなあ。これだからブンヤは怖えや。」
彼は、力の入っていた肩を大きく下げてみせる。
「たしかに会ったことはある。一緒に飛んだこともある。」
「それじゃあ」
私が顔を輝かせて何か聞こうとする前に、今度は彼が言葉を被せてきた。
「俺がピクシーを気にするのは、昔のよしみってんのかな。・・この戦争でも、一杯大事なヤツを失くしちゃったからさ。生きてるって知ったら、なんか俺は・・・あくまで俺はだけどさ、会いたくなったんだよ。・・・これって普通だよな?」
「はあ」
逆に、私のほうが聞き返されてしまった。
「ごめんよ、話せないこともあるもんな。俺は俺で探してみることにするよ。」
彼は勝手に自己完結すると、話はこれで終わりだといわんばかりに真っ直ぐに前を向いたままこちらに見向きもしなくなった。
私はそんな彼の横でコッソリ肩をすくめる。
”片羽”に関する貴重な証言が、思わぬところでとれるかと思ったのだが・・・・
そんな私にむかって、暫く車を走らせ思い出したように彼が呟く。
「仕事じゃなくてもさ、喋っちゃいけないことってあるんだよな。」
・・それは、つまりは”片羽”のことなのだろう。
私はあえてそれ以上は尋ねずに、ため息と共にただシートに深く腰をかけなおした。
しばらく走ると、立ち並ぶかまぼこ型のハンガーのうち、ひとつだけ明かりのついているハンガーが見えてきた。
基地の端の端、ランウェイすら遠くて見えなくなるような端場である。
その黄色い明かりの中で、私がつい数週間前に見た機体が堂々と鎮座していた。両翼と尾翼が紺色にペイントされた、ストライクイーグルだ。
その機体の前で、二人の男が何やら立ち話をしている。
「あーーーーー!」
ユーニはそれを見るや否や、荒っぽくハンガーの前にジープを横付けすると、エンジンを止めるのももどかしげに飛び降りて二人に走り寄る。
そしてこちらに背中を向けて熱心に話し込んでいる、白い髪の男性の首を後ろから抱え込むと、ぐいっと引っ張った。
「メビウス!こんな奴と喋っちゃダメ!ばい菌が感染るッ!」
「ばい菌?・・・」
「大丈夫ですよ、ちゃんと健康診断は受けていただいたはず」
「いや、そういう問題じゃなくてね?」
真顔で返答するメビウスに、ユーニが子供を諭すような苦い顔でつっこむ。
私もようやくジープを降り、三人の傍に荷物を引きずって歩み寄る。
もしかして、この目の前に居るのがメビウス1、こと大陸戦争の英雄だろうか・・・?
二人の様子を腕組みをして呆れた様で眺める馬車引きが、こちらに気付いて肩をすくめる。
「もうそんな時間だっけな。出立の準備でもしますか」
「え、もしかしてずっと喋ってたのか?」
「いえ、つい先ほどからですよ。・・・って、もう30分も経ってたみたいですね」
「みたいですねって」
「はいはい、飛ぶ人はさっさと行く。」
馬車引きがユーニに向かってしっしっと手を振ってみせる。
「俺はゴキブリか!」
「少なくとも生命力は。」
「やっかましい!」
からかうメビウス1の首根っこを掴んだままユーニはジープに向かうと、馬車引きのほうをキッと振り返った。
「今のうちに後方警戒レーダーの調子でもせいぜいチェックしとくんだな!」
「それでは私はお先にお休みさせていただきます、―――よい空の旅を!」
肩をすくめる馬車引きを尻目に、二人は方々バラバラのことを吐いて、ジープに乗り込んで走り去っていった。
「・・・賑やかでしたね」
「全くだ」
大きく息をつくと、彼は私をハンガーの隅に来るよう案内した。
そして、行きと同じように、自分では出来ないフライトの準備をしてもらう。
フライトの時間まで、あと一時間ほど。
私は荷物を床底に固定してもらい、フライトスーツの着方を教えてもらいながら、なんとか準備を終える。
馬車引きは馬車引きで、フライト前のチェックや別の作業も同時にこなし、手持ち無沙汰の私とは反比例して忙しそうだった。
「綺麗な機体ですね。まだ新しい子ですか?」
「いや、自分のじゃなくてね。借り物なんだ」
その合間に、私は興味半分でさきほどの話を聞いてみることにした。
「英雄さんと何を話してたんです?」
すると、彼は間髪いれずに即答してきた。
「飛行機のオハナシ」
なるほど、パイロット同士で話をするといったら・・・当然の話題かもしれない。
「他には?」
「他にあるのか?」
「・・・」
さも当然そうなその問いかけに、私の方が沈黙してしまう。
パイロットって、皆こんなもんなんだろうか。
そんな風に方々の人間と話しをしながら、彼は後座に乗るためのラダーを持ってきてくれた。脚立付きの大きいやつだ。
「さて、故郷に・・・」
帰るとしますか。
たぶん、続きはそんなような言葉だったのだろうと思う。
だが、その言葉は、座席に乗り込もうとした私を見つめたまま、不自然に途切れた。
「?何か?」
私の問いかけに、彼は無言で首を左右に振って答えた。心なしか、顔色が悪い。
「・・・乗り方は、解るな?」
意気に呑まれて同じく無言で頷いた私が席に座るのを見届けると、彼は他に言葉もなく、ラダーを降りていった。
私は辺りを見回す。が、特に変わったところは見られない。
気になって周りの整備員を見回すが、逆に私のほうが不思議な目で見つめ返されただけだった。
私はシートの周りを一通り見回す。無線のボタン、射出座席のレバー。教えてもらったのは、両手で数え切れないほどのボタンの中の、ほんの一部だけだ。
それも早々に終わってしまい、私は座席に座ったまま外を見回す。
いつの間にか、馬車引きがハンガーから姿を消していた。
「あれ、操縦者の方は?」
「そろそろ最終チェックしないと時間間に合わないんじゃないかな。ここ遠いし」
「誰か探してこいよ」
「困るなあ」
しばらくして戻ってきた馬車引きからは、微かにシガーの匂いがした。
フライト前に一服?
私にはそれが普通なのかありえないことなのかよくわからなかったが、少なくとも周りの整備員の目は、奇異の目であったように思う。
間もなく、機体が甲高い音をたてて起動しだした。
ターボファンの空気を吸い込む音が、エンジンの回転数が、徐々に高くなっていく。
私の身の回りの準備も整備員の人がしてくれ、座席越しに、馬車引きが手振り身振りで合図をし、いよいよキャノピーが閉まり始める。
ほどなくして、機体がゆっくり前へと進み始める。
ハンガーの壁がゆるゆるとずれてゆき、機体は仄かな明かりのみが点る、真っ暗な滑走路へと踏み出した。
機体は闇の中を低速で、ただひたすら真っ直ぐに進み続ける。
いつの間にか私の耳には空気を吸い込む甲高いエンジンの音と、自分の呼吸音しか聞こえなくなっていた。
いよいよ帰るんだ、そんな実感が湧かなかったといえば嘘になるが、まるで一続きの映画のシーンを見ているように、それは何気なく流れていった。
随分長い間進んだだろうか。機体がギュ、という制動をかけて止まる。
何かしら無線でやり取りをした後、私にも分かるように馬車引きが言い直す。
≪ここで暫く止まる。ヤツらが先に上がる≫
チラリと見えた前席の手袋は、はるか滑走路の向こう、反対側からやってくる3台の航空機―――F/A-22を指しているようだった。
その機体は、私たちと同じようにゆるゆると滑走路までやってくると、ランウェイ手前で一度止まる。そして3機そろって一気に加速し、私の首を振り切って空へと上がっていった。
それを見届けた馬車引きが、何かしらやりとりをした後にブレーキを外し、同じように滑走路へと入っていった。
エンジン音が甲高くなる。私の体がぐっとシートに押し付けられる。
絶え間ない無線の後、機体が蹴飛ばされるように加速し、ふっと振動をやめた。
振り向けば真っ暗闇な地面がどんどん遠ざかり、基地の明かりも、ハンガーの明かりも急激に小さくなり、やがて見えなくなった。
あっという間だった。
その頃にはエンジンの爆音も静かになっており、目の前には薄明るく輝く月が音もなくただ浮かんでいるのみだった。
≪スカイホーク1へ、こちらスカイアイ。GCIより管制を引き継ぐ。進路そのまま、上昇して19000ftを維持せよ≫
≪スカイホーク1、了解≫
≪経路は飛行計画通り。短い間だが、よろしく頼むよ≫
≪コピー≫
そんなやりとりの中、別の声が無線に割り込む。
≪スカイホーク1へ。こちらメビウス1。今日は俺が隊長だ。後方警戒レーダーの調子は万全か?≫
≪ばっちり丸見えだ≫
≪ハッタリ野郎め≫
声からするに、無線の主はユーニであろう。メビウス隊とはいえ、時によって隊長は変わるのかもしれない。先ほどハンガーで見た彼ではなく、今日はユーニがメビウス1のようだ。
私は首をめぐらせて後ろを見やるが、スカイアイとやらも、メビウス隊とやらも見つけることは出来ない。
目には見えない監視。彼らは、こちらが不審な行動を見せれば、すぐに撃墜できる位置についているのだろう。―――ぴったりと。
今更ながら、その得体の知れない恐怖と、戦時の緊張というものを肌で感じる。
そんなタイミングで、馬車引きから無線が入る。
≪まあこれからあと3時間ばかしは特にすることもない。景色でも楽しんでてくれ。≫
≪はい、了解しました≫
たどたどしい私の無線の後、あたりは静寂に包まれ、エンジンのほかに音をたてるものはなくなった。
帰国まで3時間。
私の長い旅は終わりを告げようとしていた。
※ちょっと長いので、あとで割愛するかもしれません
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